男子校に入学したはずなのに、女子の家でお泊り会の件③
疲れたぁー。肩まで風呂につかり、はぁ……。と大きく息を吐きながら、半分はため息をつく。
あの馬鹿ども二人組は習字中、親友二人は酔って寝てる。なんとのんびりできるひと時なんだ。
「失礼します。」
……ん?
ガラガラッ。
曇っていてよくは見えないが、どうやらセバスチャンさんらしい。
「執事として、未来の旦那様のお背中を流しにまいりました。」
へえ。真ん中あたりでNGワードが出てきた気もするが、基本的には優しい執事さんって感じだ。この人、戦闘から給仕まで、本当に何でもそつなくこなすなぁ。
「後ろを失礼いたします。」
後ろに回ってくる。もういいや。この人にしばらく仕えてもらった後、ユミコさんには修道院に入っていただく。それでいいやもう。
紫色のタオルを持った老人、というのもおかしな絵面だが、ユミコの髪色も紫だし、何か意味があるのかもしれない。
「それにしても、ここのお湯は気持ちいいですね。」
「ここは温泉が湧いておりますゆえ。」
「すごいっすね。それを個人で持っているんですか。」
実のない会話でも、やはり男同士だと安心するのは、女嫌いも行き過ぎだろうか。
……ん?
「すいません、背中に何か当たっている気がするんですけど。」
先ほどから、コツコツと妙に本能的に恐怖を誘う何かが当たっている。
「気のせいではございませんでしょうか。」
「いや、気のせいじゃなくて、どう考えても当たっているんですけど。」
「実はわたくし、男色でございまして。」
レイナの言う「ワタクシ」よりも、セバスチャンさんの言う「わたくし」の方が、品があるよなぁ。
……だめだっ、やっぱり聞かなかったことにはできねぇっ!
「えっと……つまりこれって……。」
「はい。当たっているのではなく、当てているのです。」
……。どうしよっか。とりあえず。
俺は、大きく息を吸った。
「ユウキー、アオイー!
レイナー!ユミコー!誰でもいいから助けてボゴォッ!」
セバスチャンさんに後ろから鼻と口に向けてシャワーを入れられる。
「ちなみに、わたくしは受けと責めで言うと責めでございます。それに追加致しまして、Sというやつです。かなり過激派の。」
「ぼ、ぼごぉっ、き、聞いてないよぼごぼごぼごぼご。」
「なに、痛いのは一瞬です。」
これは……やばい……このままじゃっ……貞操がっ……。
「婚約者見参。」
「お姉さまぁ!女の子の良さがわかりましたことぉ!?」
こいつらっ!
「いいから、この老人をどうにかぼごぼご。」
「どうにか?」
いや、そういうの良いから助けろっ!
「わかった。」
「ユウリアタックですわぁ!」
心を読んでくれたユミコがレイナをハンマー投げみたいにしてこちらに放り投げる。その時、ユウリの部分がちょうどセバスチャンさんに当たるように。
「む!」
もういい年して、しかも色ぼけているくせに、こういうときだけは動きが早い。ユウリとレイナは躱され、俺の、現在ガードがタオルぐらいしかない大事なところに体ごとクリーンヒットする。
「いたぁっ!」
男子諸君はこの苦しみを分かってくれるだろう。
「ちっちゃくなってますの!」
そりゃあこんだけ怖い目にあったらなぁ!
「お嬢様、あとは既成事実です。」
それだけ言うと、セバスチャンさんは風呂の外へと逃げていった。
……気まずい!超気まずい!
「と、とりあえず、あとは自分で洗うから、二人とも濡れるといけないし出て行ってくれないかなぁ?」
「要警戒。」
「つまり、濡れてよくなれば問題ないですわぁ!」
えぇ……。
二人が服を脱ぎ始める……と、ここでさらに問題が発生!
「カヅキー、なにかあったのかぁ。」
「助けに来たわよー。」
さっき勢いで呼んだアオイとユウキだ。このままでは、レイナとユミコが女であること、俺と風呂に入っていることが見られて、いろいろ軽蔑される……!
「だ、大丈夫だ!問題ない!」
「そういってまた何か隠してないだろうなぁー。」
「うふふ、親友のわたしに隠し事はなしよぉ。」
あっわかった。こいつらさてはまだ酔ってるな。
「いやぁ、寝言で叫んじまったみたいだ。やっぱり親友の名前は寝言でも出て来ちゃうもんだなぁ。」
我ながら、毒を一気飲みしているかのように苦しい言い訳をする。
「うふ、うふふふふ。」
あ、あの……アオイさん?
「えへ、えへへへへ。」
ユウキさんも……?
「「親友が、そういうんなら、そうだよねっ!」」
あーわかった。お前らもたいがいアホでしょ。酔ってるとはいえ。
ドアの前から気配が去っていく。これでとりあえず難題を4分の2クリアだ。
「お、お前らもで、出て行って、ほ、ほしいんだけど。」
すでに下着姿の二人に言う。
ユミコは上下紫、レイナは……上が髪と同じ赤だが、下がなぜか極彩色だ。怖い。
「ほら、ふたりとも、服着て出ていけ。」
俺が風邪をひく。
「でも、服はもう濡れちゃった。」
ユミコが斜め下にずれた指摘をする。
「うるさい、お前らバカだから風邪をひかないだろ!」
「ワタクシでも、通う学校を間違えるレベルのバカじゃありませんわぁ。」
そんなバカいないだろ……。
「そんなバカこの世にいるわけがないだろ!」
俺が突っ込むと、ユミコがプッと吹き出す。
「二人ぐらいはいるかもね。」
そんなにいてたまるか。
「いいからほら!出てった出てった!」
「DVですわぁ!」
いつドメスティックになった。
ふと、出ていく直前のユミコが振り返って、珍しく顔を赤らめた。
「どうした?」
「タオル、使ってくれてありがとう。」
まさかだけど、このタオルを使うのが婚約の証とかじゃないよな……。
「いや、違う。素材が私の髪で……」
婚約の証じゃないならいいや。
「ほら、出てった!」
二人を追い出し、肩まで湯につかる。
ふと、左手を見ると、先ほど折られたばかりなのにもう完治していた。すごいな、温泉の効能。
こうして、騒がしくて危険で酒臭い、けれども楽しかったお泊り会は終わった。
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