男子校に入学したはずなのに、女子の家でお泊り会の件①

 金曜日、学校が終わるとレイナに連行された。背中がチクチクするヒカリモノ連行法なんだと。


 ユミコの家につくと、ユウキとアオイ、ユミコは揃っていた。


「ほ、ほら。俺部活あるし……。」


「連絡済」


「土日は水鉄砲で遊ぶ義務があるから休むって送っておいて差し上げましたわぁ!」


 ここに来るまでで、もう既にいくつかのトラウマスポットを通っている俺としては、既に帰らせていただきたい。


 でもそれだと、危険女子2人組の所に、親友2人組を置いていくことになるんだよなぁ。案内された、以前入った部屋に連れられた時はフラッシュバックを起こしかけたが、それでも帰る訳にはいかん。


「もう、たまにはいいじゃん、カヅキ!」


 アイツらの影響か、最近アオイもイロモノ化してきてるよなぁ。


「そうだ、アオイ?ここのお風呂すごいのよ!ここまで来るのに汗をかいちゃったし、いただかない?」


 ユウキが話題を逸らしてくれたのは、俺が駅からここまでのトラウマパラダイスに合ったのを気が付いているからだろうか。


「カヅキも一緒に入る?」


 おっと、そうでもなかった。たとえ男子でも、風呂場で、可愛い女装男子2人とキャッキャウフフとなると、胃に穴が開きかねない。


「お姉様はワタクシ達と一緒に入るのですわぁ!」


「初夜の禊。」


 こいつらはこいつらで何をのたまっているんだ。


「いや、私は1人ではいるので!」


 初日はこれで済ませてもらうことにした。


 それでも怖いので、風呂の中に物干しざおを拝借して、つっかえ棒にしたが。もちろんながら、風呂の扉に映ったゾンビみたいな影は気のせいである。うん。気のせいだ。


 部屋は、アオイとユウキで1部屋、俺、ユミコ、レイナで1部屋だ。部屋割りは家主特権らしい。


 今日は、来て、寝るだけだったはずなのに、異常に(非常に、ではない)疲れた一日を終え、布団に潜り込む。


 ちなみに、俺の身の安全のために、ユミコは風呂の排水口、レイナは部屋備え付けのトイレにそれぞれ沈めてある。


 おやすみ今日よ。明日はせめてもう少し楽な一日を送れますように。





 不幸にも、目が覚めたのは朝ではなかった。時計を見ると、2時半とか書いてある。なんで時計なのに「半」と書いてあるかは絶対に突っ込まん。


 布団の中に、俺のものでは無い柔らかい温もりがある。レイナかユミコが復活して、潜り込んできたな。


 つまみ出そうと覗き込んでみると、中にいたのは……


「アオイ、何してんの?」


「んー、えー?」


「ここ、わたくしの布団ですが?」


「おはよぉー。」


「よし、ちょっと起きようか。」


 5分後。


「どうしてここで寝てたの?」


「ここのお手伝いのセバスチャンさんが、こっちの部屋ですよって。」


あの執事の人か……。


「てか、あの人どう見てもアジア人だったよね?」


「セバスチャンさんは、瀬場須・張さんだよ?」


「まさかの中国人。」


「でも、張って苗字じゃないのかな?」


 それより、アオイと話して気がついたことがある。こいつ、酔ってるぞ。


「ほら、自分の布団で寝なさい。」


「カヅキと寝るー!」


「いや、同性とはいえそれはちょっと勘弁……。」


 アオイもユウキも、本当の女子より女子っぽいのだ(本当の女子、の基準はカオリ)。


 いくら同性と分かっていても、ぶっちゃけ心臓に悪い。胃なんて蒸発しそうだ。


「ほら、また明日遊ぼうぜ。」


 そう言って体をひきはなす時……柔らかっ。


 アオイも、実は本物の女子なんじゃないのかと疑うほどに柔らかい。しかもこいつ、コルセットつけたまま寝てるな。鎖骨わずか下が、俺にとっての危険ゾーンになっている。


 俺が慌てて反対側を向くと、何かにぶつかる。


 ……が、柔らかく跳ね返された。ユ、ユウキ……。


「ユウキ、お前もか!」


再び5分後。


「ユウキ、なんでこんなところで寝てるんだ!」


「ご、ごめんなさい……。だって、セバスチャンさんが……。」


「またあの中国人か!」


「セバスチャンさんは、背馬 スチャンさんで、日系アメリカ人だよ?」


「あの人は一体何者なんだ……。」


 以前、俺に睡眠薬を盛ったのも実行犯は彼だろう。


「そんなことより、一緒に寝よう?せっかくのお泊まり会なんだし。」


「いや、たとえ同性でも、高校生でそんなことするのは良くない……。

 待て、ユウキも酔ってるだろ?」


「酔ってなんかにゃーいよ?」


 思いっきり酔っているようだ。


「高一から酒って、停学になっちゃうぞ?」


「飲んでなーいもーん。」


 仕方がないので二人を抱っこして、二人の部屋に連れていく。もちろん、二人同時なんて無理なので一人ずつだ。




 口にしたら酔ったユウキにぶん殴られたけどさ。床の間の高級そうなツボで。


 二人の部屋の前まで来ると、何かが匂ってくる。恐る恐る戸を開けると、中にはいつの間にか復活していたユミコとレイナがいた。


「やぁみんにゃあ、元気しておりますのぉ?」


 口ぶりが明らかによっているレイナが声をかけてくる。


「ワイン、日本酒、紹興酒。エバークリアにスピリタスー。」


 ユミコまでキャラが変わってる。あと、最後二つはまともに飲んじゃいけないやつ!


「お前ら、何してんの。」


「おねぇさまぁ!もちろん、みんなでお酒で乱れるパーティーですわぁ!」


「略して、乱pっ……!」


「何しているんですのぉ!お姉さブッ……!」


 どうせ明日は頭痛いだろうし、トンっと気絶させる達人技なんてできない。(カオリはできる。)遠慮なく後頭部をフルスイングし、いい夢見せてあげることにした。


酒臭くて頭が痛い。こんな体調じゃ今夜は寝られないよ……。


 約7時間後。そう、7時間後である。こいつらが俺に起こされたのは。我が親友二人は、こいつらから迷惑をこうむったので、もう少し寝かせてあげる。


 7時間、最初はあまりにも暇だったのでいつの間にか体全てを使っていたユウリと話したり(このバカが寝ている間は自由に使えるらしい。)、二人トランプで七並べをしたりして遊んだが、それが続いたのも朝の6時まで。


 パジャマから女装をし、用を足し、酒の匂いと寝不足で痛む頭を、井戸の水で冷やしたり。


 それでも一向に起きる気配がないから、おはようのフライングボディプレスで起こしてあげたのだ。二時間ほど説教をしているところで、アオイとユウキが起きてきたので、謝罪をさせた。


 朝飯を持ってきたセバスチャンさんは結局何者かよくわからなかったが、気にしたら負けである。


「もうほぼ昼だ」


「大乱ブッ!」


「お前今何言おうとした?」


「ゲームの名前。DV。」


「前科があるから正当防衛だ。」


「じゃあ、鬼ごっこ。」


「小学生。」


「却下。」


「三人とも、けんかしていないで、習字でもしましょう?」


 どうしてそうなった。


「「いいねぇ!」」


 もう(なんでも)いいや。

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