男子校に入学したはずなのに、授業の質が異常に高い件
次の日、学校で、国語の授業があった。
「つまり、135ページ8行目のこの表現により……。」
なるほど、担任には申し訳ないが、いつもの数倍はわかりやすい。
「すみません。ここがわからないのですが……。」
手を挙げた生徒のところに行き、軽く話を聞き、数秒教える。すると、その人の顔がすぐに晴れて、よくわかったことが見てとれる。
ベテランと聞いていたが、すごいわかりやすい。
「私には高1の息子と中三の娘がいますが、皆さん、私の子供たちよりも頭がいいですね。」
なんだろう。少し胸が痛むが、昨日よりも質問のしやすい雰囲気を作ってくれている。いうなれば、雰囲気を作るプロなのかもしれない。
そういえば、父さんもそういうのすごくうまいよなぁ。母さんに怒鳴られるよりも父さんが本気で切れたときの雰囲気の方がよっぽど怖い。
もしかすると、本当に遠い親戚とかだったりしないよな?
「これで、授業を終わります。」
す、すげえ。
今までの担任の授業ではこの分量を進むのに5コマは使っただろう。それをたった1コマで終えてしまった。しかもわかりやすい。
男子校の欠点として、比較的授業中に騒がしくなりやすく、授業が進みにくいとネットに書いてあった。もちろんこの学校の授業は全体的にわかりやすかったが、比じゃなかったな。
さらに次の日、またも父さんがいない朝食をとり、学校に行く。
今日は、再び国語があった。
「出席番号一番、相川愛さんですね。数学の教科書はしまいましょう。」
ざわ……。
こ、こえぇっ。なんと、この先生は後ろを向いたまま、しかも赴任三日目で生徒の出席番号、苗字、名前と何をしているのかを黒板を掻きながら見抜いた。
「数学の宿題なら、あとでわからないところがあれば持ってきてくだされば教えて差し上げますので、今は授業に集中してくださいね。」
「はい……。」
やっぱり、似ている。年齢不詳だから、父さんとどういう関係かはわからないが、父さんの妹とかかもしれない。そんな人いないけど。
ていうか、数学教えられる国語科の先生が一体どれぐらいいるんだろうか。そう考えると、この人には尊敬の念を向けられる気がした。
家に帰ると、父さん宛に荷物が届いていた。サイズからみて、服が折り畳まれて入っているのだろう。
普段、父さんはファッションなどにあまり興味を示さない人間だから珍しい。
そして、持ってみて気がついた事だが、意外と重いな、この箱。服のくせに、俺のコルセットと同じぐらい重い。
とりあえず父さんの机の上に置くと、自分の部屋で着替える。
「ただいまー。」
父さんが帰ってきた。今日も早いところを見ると、実は初日とか関係なく早帰りの理由があるのか。
「まったく、バレないように着替えるのも大変だ……。」
なんかブツブツ言ってるし。
「おかえり。今日も早かったね。」
「うおっ!いたのか!疲れてるのかな。びっくりした。」
父さんは苦笑で誤魔化しているが、あの顔は面倒なことを聞かれたり、何かマイナスなことがあった時の顔だ。
以前、妹のユイが「子供ってどうやって産まれるの?」という質問をしたときに、この顔をしていた。
あとは、いじめにあっていた女子生徒と浮気しているんじゃないかっていいがかりを母親に問い詰められた時もこの顔をしていたな。
なんでも、すぐに答えなかった理由が、浮気をしていたからじゃなくて、いじめを受けていたのは生徒の個人情報だからだ、というのが父さんのかっこいいところだが。
まぁ、無理には聞くまい。俺も女装の件は聞かれたら嫌だし。
「なぁカヅキ?」
「なに?」
「もし俺が女装していたら、どう思う?」
「ブファッ。」
飲んでいたお茶をすべて吹き出す。まさか、ばれた?
「ど、どうしてそんなこと聞くのさ?」
「い、いや、父さんがそんなことをしていたらどうかなって。」
「べっ、別に何とも思わないよ!……慣れてるし。」
「そうか、そうだよな!ん?最後今なんて?」
「いやっ?かわいいんじゃないかな?……血筋的に……。」
「あ、ありがとう?」
珍しく、父さんと微妙な雰囲気になったので、話題を変えてみる。
「この、今日届いた荷物は何だったの?」
「これか?何でもない!」
なんでもない荷物って何だろう。
またも微妙な雰囲気になってしまった。
木曜日は国語がなかったが部活の先輩たちに、掃除の時間に話題を振ってみることにした。
「新しくきた佐藤先生ってどうでした?」
「おっ、同じ苗字だから対抗意識かなー?でも、あの先生はすごいよ!男みたいな力でプリントの山運んでたし。」
とヒカル先輩が言うと、ボーイッシュ先輩(もうそれでいいや)も
「そうだよな。わたしなんて廊下で転びそうになったときにいつの間にか現れて、受け止めてくれたんだぜ。自分を下敷きにして。しかも、胸とか一切触らずに!」
おい待ていきなりキャラを崩すな。頬を赤くするな……。
だが、ヒーローと厄介ごとは遅れてやってくる。部活も終わり、着替えて帰ろうとすると、
「お姉さまぁお会いしたかったですわぁ。」
と、さも当然のようにいたレイナが腕を組んでくる。
「婚約者放置、厳禁。」
反対側を見ると、ユミコまでいるし。
「お姉さまぁ、お姉さまはワタクシを怒らせましたのぉ。」
いや、怒らせたとは何ごと……。
「私も。」
「えっと、俺何かした?」
「お弁当交換。」
あれかぁ。
「そ、それはすまなかった。それで、俺は何をされるんだ?」
「もうした。」
何をされたんだろう。
「転勤。」
「えっ?」
「だからぁ。お前の父さんの転勤だよ。ユミコが上から圧力かけたんだってさ。ほかにも、お前が部活行くときに電車止めたり……。」
ユウリもいたのか……。気が付かなかったなぁー。すごいなぁー。全力で現実逃避する。が、父さんがかかわってくるとなると話は別だ。
「どういうこと?」
「お姉さまにかまってもらえないから、お姉さまのお父様にかまってもらうことにしたんですわぁ!」
「てことは、もしかして、佐藤先生って……。」
「お姉さまのお父様ですわぁ!」
「シャレにならんわ!てか、どういうこと!?」
「揉めば、わかる。」
「いやいいわ。やめとく。」
「それで、この子たちはお前と取引がしたいんだと。」
なんかやたら楽しそうだな、お前ら。ユウリも含め。
「な、何を要求するつもりだ。」
「簡単ですわぁ!」
嫌な予感しかしねぇ。
「お泊り会。」
「正気かよ。」
女嫌いの俺には絶対回避したいイベントだ。
「その話、聞かせてもらったぞ!途中から!」
「私たちも、参加してみたいわ。」
振り返ると、そこにはアオイとユウキがいた。絶対、お泊り会の話しか聞いていなかっただろ。そして多分二人は、レイナとユミコを自分らと同じ女装男子だと思っているな。
「おい、こいつらはいいのかよ。」
ユミコにひそひそ尋ねると、
「オーライ。」
いいのかぁ。二人は巻き込みたくなかったんだが。この、奇人変人の集いに。
「金曜日放課後、私の家に集合。」
そうか、ユミコの家バカ広かったっけ。でも、荷物取りに行くふりして逃げられないかなぁ。
「お姉さまの荷物はすでにご用意してございますわぁ!」
ねえ、君ら毎回、その手の根回しどうやってやってるの。
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