男子校に入学したはずなのに、同級生と倉庫イベントやってる件

「どうも、逃げ道はほとんどなさそうね。」


「まあ、倉庫だからなぁ。」


「でも、これを見つけたからよしとしましょう?」


「それが必要になるほど長居したくないなぁ。」


 ユウキが手に持っているのは、非常用の乾パンと水、そして毛布だ。これってがっつり生活するための道具じゃん。


「これがあれば、短くても数日は生きていけるわよ。」


「ねえ。」


「はい?」


「そもそも、次の授業でここ使うクラスがあるんじゃない?」




「いわれてみれば、それもそうね。」


 しかし、チャイムが休み時間の終了を告げたあと、ドアの向こう側には人の気配が全くなかった。


「だ、大丈夫。つ、次の時間は誰かが使うはず。」


 ん?冷静に考えたら、俺らの体育は四限。今終わったのは五限だ。


 そして、ヒトの気配は外側にはない。普通、体育教師は少し早めに来てたりするだろうが、それもない。つまり、あとは部活の時間にかけるしかなさそうだが、そもそも今日は部活の勧誘期間。


 =人は来ない。q.e.d.


 お、おわったぁ。


「やっぱり、今日は野宿ならぬ倉庫宿になりそうね。」


「できればしたくないけどな。」


「でも、こういうところは幽霊とか出そうで怖いわね。」


「ば、ばかっ余計なフラグを……。」


 先ほどのユウキのフラグの建築力から見るに……。


「きーさーまーらー。」


「「ひっ!」」


 や、やっぱりでたぁ。幽霊まで呼んじゃうとか、フラグの力強すぎでしょう!


「ウチの飯と毛布を返せー」


「「きゃぁーっ……。って、え?」」


 俺もユウキも、悲鳴を上げた直後に思わず聞き返してしまった。


「だから、うちの飯と毛布を返せっていうんだよ!」


 なんだろう。激怒して怒鳴る幽霊というのは、あまり怖くない。


「うちは!ここの!二年!

 体育着に書いてあるからわかるけど、貴様ら一年だろう?先輩のものを勝手にとるな!」


 こっわ。しかも先輩かよ。カツアゲされそう。


「か、カツアゲに会うほど、お金持ってないですけど。」


 一昨日にカオリに言われたセリフを、今度は自分が使うことになるとは。しかもマジな理由で。


「とらねえよばぁか。」


 いつの間にか俺の後ろに隠れていたユウキが「ひっ。」と声を上げる。これが正しい女子の反応か。覚えておこう。


「お前らどう見ても体育着だろう?体育着にお金いれて持ち歩くのはただのバカしかしないだろうが。」


「げふっ。」


 後ろでなぜか、ユウキが咳をする。持ち歩いてるのかな、こいつ。


「え、えっと、先輩はどのようなご用件でここに?」


「あたしは、単にここで暮らしているだけ。よく、アニメとか漫画とかであるだろ?

 学校で生活したり、立てこもっちゃったりするやつ。あれに憧れてな。」


 なんだ、いいひとっぽい。そういや、なんでこの人も女装なんだろう。


「そうでしたか……。

 そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は佐藤カヅキで、こちら、後ろで震えているのが浦和ユウキです。」


「ごっ、ごめんなさいぃ。」


 閉じ込められた当初は毅然としてかっこよかったのに、よほど幽霊が苦手なのか、震えてしまっている。


「そういや、あたしも名乗ってなくて悪かったな。

 あたしの名前は加藤ユウリ。二年だ。」


 そこでふと、大事なことに思い至る。


「というか、今って授業中じゃないですか?」


「ん?まあ、時間的にはそうだな。」


「つまり、本来受けるべき授業があるんじゃないですか?」


「まあ、そういう人もいるな。」


「何でここいいるんですか?」


「そういうお前らはどうなんだよ。」


「そりゃ、私たちは閉じ込められて……って、あれぇ?」


 なんでこの人がここにいるんだろう。さっき、全部隅々まで抜け道とかを探したはずなのに。


「一個いいことを教えてやるよ。」


「はぁ。」


「ここの体育倉庫、鍵かからないぞ。」


「「えっ。」」


 さすがに、先ほどまでガクガクだったユウキも硬直する。今までの俺らの努力と覚悟は何だったんだ。


「なんでも、以前ここに閉じ込められちゃった子の死亡事故があって以来、鍵を取り付けないようにしたとか。」


 学校の怪談というやつか。


「でも、さっきカシャンって。」


「ワリい、うちがぶつかって金具を落としちまった。」


「マットが倒れたのは?」


「倒れたんじゃなくて、うちがベッドに使っているマットに飛び込んだ音じゃないか?」


「先生がどこかに行っちゃったのは?」


「さすがにゴリラはうちがいることに気が付いているからなぁ。中に誰かいても、そこまで気にしないだろ。」


「……マジか。」


「マジだ。」


「まあ、教えてくれてありがとうございます。」


 そういいながら、乾パンと水を返し、毛布はユウキがつかんで離さなかったので、なだめてすかして渡してもらい、先輩に返す。


 その時、閉まっていたはずのドアがバーンと開かれる。アオイとリラが立っていた。


「先生、やっぱりいました!」


「す、済まない二人とも。どうか、この件は許してくれ!」


 大の大人が、心配そうな顔で必死に頭を下げているのを見ると、許さないともいえない。


「いいですよ先生。頭を上げてください。」


 ユウキはやはり優しい。まあ、今回は俺らが立てこもっていたに近いし、さすがに責める気はないけどさ。


「本当にすまなかった。親御さんには、こちらから連絡させてもらう。」


「いや、私らも大ごとにしたくないんで、いいですよ、無理しなくて。」


「そ、そうか。いや、本当に申し訳なかった。」


 そういえば、加藤先輩はどこに行ったのだろう。彼(女装していたから彼女?)にも、お礼を言わなくては。


 しかし、振り返ったところには誰もいなかった。アオイが、


「どうした?カヅキ?」


 と聞いてきたが、とっさに


「ううん、なんでもない。」


 と答える。


「そういえば、この倉庫には幽霊が出るらしいな。」


 そう教えてくれたのは、リラ先生だ。


「そうですか。でも、彼女の正体は、学校の体育倉庫で暮らすことに憧れて、こっそり生活している二年生ですよね?」


「お、入りたての一年のくせによく知っているな。そういう設定で名乗ると、かつてうわさしていた生徒が言っていたな。」


「……あれ?先生、その噂って、いつごろからあるんですか?」


 俺と同じ疑問をユウキが投げかける。


「確か、俺が赴任した時にはあったから、少なくとも7年前かなぁ。なつかしいなぁ。」


「「えっ……。」」


 これ以上は、深く考えないことにした。

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