突然

 9時過ぎ。


「あー、頭痛い……」


 ソファにもたれかかり、頭を抑えながら、絵里さんは呻くように言った。


「大丈夫ですか……?」


 とりあえず、冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを手に取り、それを渡す。


「あー、ありがとう……ちょっと飲み過ぎたみたいね。ワイン2杯でこの有様よ……」


「え、2杯……?」


 2本じゃなくて?

 しかも、ビールとかじゃなくてワインなんだ……

 やっぱり、優雅だな……


「消毒のアルコールの匂いとかでも酔いそうになるのよ、私」


「弱過ぎません?!」


 そんな弱弱なのに、お酒を飲みに行くなんて、よっぽど怒り心頭だったってことだよね……

 本当、申し訳ないことしたよな……


「晶君」


「は、はい……」


「私、今日はもう動けそうにないの。だから、ベッドまで連れて行ってくれない?」


「え、あの……」


「してくれないの?」


「いや、します……」


 こうなったのは、僕のせいでもあるわけだしね……

 というわけで、僕は深呼吸した後、絵里さんをお姫様抱っこの要領で抱き上げる。

 絵里さんはびっくりするくらい、軽かった。

 それにその豊満な胸が嫌でも視界に入ってきてしまう。

 その上、スベスベの脚が僕の掌にダイレクトに当たっていて、その感触だけでどうにかなってしまいそうだった。


「んんん、晶君に抱っこされてる……幸せ……♡」


 僕の腕の中で絵里さんは幸せそうに呟きながら、僕の胸に頬擦りをしてきた。


「さ、早く一緒にベッドインしましょ……♡」


「いや、そこまではしませんよ!?」


「えー、ケチー」


 ケチとかいう問題じゃないと思うけど……

 僕はそんなことを思いながら、絵里さんの部屋に入っていった。


 絵里さんの部屋はびっくりするくらい、シンプルだった。

 しかし、入ると何故かいい匂いが漂ってくる。


「よしっと……」


 なるべく平常心を装いながら、絵里さんをベッドの上に寝かせる。


「あー、もう終わりなのね……本当楽しい時ってあっという間……」


「まぁ、これくらいならいつでもしますけど……」


「え、本当!?なら、毎日頼むわね」


「は、はい……」


「それじゃ、私はもう少し寝るわね」


「はい、おやすみなさい」


 そう言って、僕は絵里さんの部屋から出て行こうとした。

 その時だった。


「あ、待って」


 絵里さんにぐいっと腕を引っ張れたかと思うと。


「ちゅっ」


 その柔らかい唇を僕の頬に当ててきた。


「お姫様抱っこのお礼よ」


「あ、は、はい……」


 突然のことに僕は激しく戸惑いながら、フラフラとリビングへ戻っていった。

 もう少しで唇同士だった……

 全く不意打ち過ぎるよ……

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心身共に疲れ果てた僕の前に現れたのは美人なお姉さんで、とりあえず同棲することになりました。 あすか @gantz001

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