付けてない

「今年も盛り上がっています!」


 浴衣姿のリポーターが大歓声に負けじと大きな声で伝える。

 夜の9時すぎ。ボードゲームとカードゲームで一通り白熱した僕達は、今はソファに並び合うように座って、テレビのニュースを見ていた。


 もうそろそろ夏本番。

 地域によってはもう夏恒例の花火大会が開催されており、その模様が中継されていた。


「本当にもう夏って感じよね」


「ですね。外に出るだけで汗かいちゃいますし」


 夜のデザートということで絵里さんが買ってきてくれていたアイスを2人で頬張りながら、そんな会話をする。

 アイスはスーパーでも売っているちょっと高級なハーゲンのアイスだった。

 オーソドックスにバニラにしたけど、やっぱり美味しい。本当に久しぶりに食べた。絵里さんはクッキー&クリームだ。


「花火大会なんて久しく行ってないと思うわ」


「僕もです。まぁ行けるような環境ではなかったので……」


 学校で周りは楽しそうにどこの花火大会に行くだの、行っただの言っていて、ものすごく悲しかったのは覚えている。

 もっとお金がほしい……なんて、ずっと考えていた。


「でも今は行けるわよね?」


「え……あ、はい、そうですね……って、もしかして……?」


「花火大会行きましょう!確かこの辺りでも来月辺りに開催されるはず!」


 絵里さんはエンジンがかかったように、ものすごい勢いでアイスを食べ終えると、すぐさま携帯で調べ始める。


「あったわ!」


 そして、あっという間にホームページを見つける。


「来月の2日ね。よし、ここに行きましょう。となれば、浴衣とジンベエも買っておきましょうか」


「え、いや、そんな……勿体ないですよ」


「せっかくの花火大会よ?!目一杯楽しまなきゃ!」


「は、はい……」


 鬼気迫る勢いで絵里さんに言われ、僕は頷くしかなかった。

 まさか、花火大会に行くことになるなんてね……

 しかし……めちゃくちゃ楽しみだ……

 屋台のご飯なんて、ほとんど食べたことがないし、どんなものが売ってるのか非常に楽しみだ。

 それにジンベエも……

 いや、それより絵里さんの浴衣姿……

 想像しただけでやばいよ……

 似合わないわけないじゃん……

 花火大会も楽しみだけど、浴衣姿も楽しみだな……


「晶君、知ってた?」


「え?」


「女性わね。浴衣着る時、下着付けないのよ……」


「ぶっ!!?」


 爆弾発言に僕はたまらず、口に含んでいたアイスを吹き出してしまった。


 つ、つけ……てないの……?!


「ふふ、来月が楽しみね……」


 絵里さんは片方の口の端だけ吊り上げ、呟きながら、リビングから出て行くのだった。

 そして、リビングには悶々とした様子の僕だけが残るのだった。

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