おサボり

 翌日の朝。9時過ぎ。


「よし」


 僕は部屋で身なりを整えた後、部屋を出た。そして、リビングへと向かう。


「あら、早起きね」


 リビングには、寝巻き姿のまま、ソファに座り、何かの本を読んでいる絵里さんがいた。


「はい、学校に行ってこようと思って」


「え、学校……?」


「はい。絵里さんのおかげで借金もなくなったので、復学の手続きに行こうと思って」


「ああ、なるほど。そっか……ついに、その日が来るのね……寂しくなるわ……」


 何故か目元を拭い出す絵里さん。


「え、いや、あの、日中いないだけなんで、夕方頃には帰ってきますけど……」


「早く帰ってきて、いつもみたいにただいまのキスをしてね……」


「いや、したことないですけど……」


「ええ!?じゃあ、今しよっか……」


 言って、唇を指先でなぞる。

 その仕草に一瞬、ドキッとしてしまう。


「いや、しませんけど……」


「遠慮しなくていいのよ」


「いや、本当に大丈夫です……」


 これ以上、ここにいるのはまずいと思い、僕は足早にリビングから出て行った。


「焦らしプレイ……♡ゾクゾクするわ……♡」


 恐らく、悶絶している絵里さんをよそに僕は部屋から出ていった。

 そして、エレベーターを降り、学校へと向かう。

 ここから学校までは20分くらいかな。

 絵里さんと行動する時はいつもタクシーだったけど、たまには歩くのも良いよね。

 そうして、学校までの道を歩いていくのだった。













 ♦︎













「ありがとうございました……」


 職員室を出てから、僕は少しだけ頭を下げた。しかし、自分でも浮かない表情をしているのだろうと思う。

 思っていたような返事が貰えなくて、少しガッカリしているからだ。


 先生からは今、復学するよりは来週、期末テストもあるし、学力も足りてないと思うから、とりあえず一学期はこのまま休んで、夏休みにある補習に出て、学力を補い、二学期から復学する方がいいとのことだった。


 確かに入学早々に休学したから、正直、勉強については全くついていけないだろう。

 しかし、それ以上に僕は早く学校に通いたかった。

 ようやく手放しで生活できるようになったんだから、早く青春を謳歌したい。そう思っていたのだ。


「はぁ……」


 ため息を吐きつつ、下駄箱へ向かう。


「あれ、晶?」


 と、その時、僕を呼ぶ声が後ろから聞こえてきたので、そちらの方に顔を向ける。

 そこには何か用があって、職員室に来ていたのか、有紗がいた。


「どうしたの?」


「ああ、うん。復学の手続きしに来たんだけどさ、勉強のこともあるし、二学期からでどうだって言われちゃった」


 はははと苦笑いを浮かべる。


「そうなんだ……」


 僕同様に何故か浮かない表情の有紗。


「だから、二学期から一緒に通おうね」


「うん……あ、あのさ……」


「うん?」


「この後、時間ある?」


「あるけど……?」


「じゃあさ、一緒にどっか行きましょうよ」


「え、でも、まだ授業あるんじゃ……」


「いいの、いいの!どうせ退屈だし、テストもバッチリだから」


「まぁそうか……」


 有紗は、中学の頃から頭がよかったから、きっと高校のテストも余裕なんだろうな。


「じゃあ、待っててね!」


 僕の返事を聞く前に、有紗は慌てて走り去っていった。

 うーん、出かけるのは別に良いんだけど、お金持ってないしな……と思っていたのだが。


「あれ……」


 ジーンズのポケットを探ると、何故かそこにはポチ袋があり、中を開けると、そこには2万円も入っていた。

 そして、一緒に小さなメモ紙も入っており、そこには綺麗な字で「遠慮なく使ってね」と書いてあった。

 絵里さんだよね……

 いつの間に入れたんだろう……

 しかし、ものすごく有難い。


 僕は心の中で感謝をしつつ、有紗が来るのを待つのだった。

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