諭吉のチカラ

「ちょ、ちょっと待って……」


「ふふふ、だめよ。さぁ……じっくりと……」


 僕も願いも虚しく、絵里さんはゆっくりととどめを刺しに来る。


「あー……!」


 そして、画面に映るYOU LOSEの文字。

 あー……負けた……


「私の愛息子は伊達じゃないわよ」


 得意げに言う。

 というか、息子って……

 女の子のキャラもいるはずなのに……

 男性のキャラだけでパーティ組んだのか。

 恐るべし。


「おかしい、スタートラインは同じのはずなのに……」


 むしろ、僕の方が先に始めていたのに。

 最も、操作方法がわかんなくて、あたふたしてたところを絵里さんが助けてくれて、そしたら絵里さんも遊んでみるってことになったんだよね。


「というか、どうしてそんなレアキャラばっかり……」


 スタートしたてだから、そこまでキャラが揃ってるなんてありえない……


「ふふ、これが諭吉のチカラよ。不可能を可能に変える男なの。素晴らしいわよね」


「ずる!!?」


 諭吉ってことはつまりお金じゃん!


「既に10万は課金したわ。おかげで最新弾のキャラは全て揃っているのよ」


「羨ましいのか、なんなのかわからない……」


 さすが金持ちというべきか……

 さっき、やけに画面連打してると思ったが、ガチャ弾いてたのか……

 10万……

 そんなすぐに大金出せるなんて、相変わらず凄すぎる……


「晶君も課金したくなったら言ってね」


「地道に頑張るのでいいです……」


「強がっちゃってー……って、もうこんな時間じゃない」


 携帯に映る時刻を見て絵里さんは言った。

 僕も慌てて確認してみる。

 時刻は既に昼の12時になりそうなところだった。


「そろそろ出掛けましょうか。お昼は外で食べるってことで」


「あ、はい」


「じゃあ着替えてくる」


 言って、絵里さんはリビングから出て行った。

 僕も着替えないとな。

 そうして、僕もリビングから出て行き、部屋にあった服に着替える。

 ラフにTシャツとジーンズにした。

 そして、再びリビングに戻ってくる。


「お待たせー」


 その声と共に絵里さんも現れた。

 絵里さんは白のキャミソールにパンツのコーデだった。相変わらず、上半身の破壊力が半端ない……


「それじゃ、タクシー呼ぶわね」


 言って、スマホを操作する。

 やっぱりタクシーなのか……

 というか、どこの映画館に行くんだろ?

 ここからだったら、ショッピングモールが1番近いよね。


「すぐ来るみたいだから、行きましょうか」


「はい」


 そうして、2人揃って部屋を出て、エレベーターに乗り込む。


「晶君」


 エレベーターに乗り込んだ瞬間、絵里さんは真剣な表情で僕のことを呼んできた。


「は、はい……」


 その真剣さにこちらもたまらず、身構えてしまう。一体どうしたんだろう……


「先に言っておくわ」


「はい……」


「ここのエレベーターには監視カメラがあるの」


「はい……」


「我慢できなくなってもここで襲っちゃダメよ?お部屋まで我慢してね」


「はい……って、なんの話ですか!?」


「一応ね?いつそのタイミングが来るかわかんないし」


「そんなタイミング来ないですよ!!」


「またまたーもー。相変わらず焦らすんだからぁ♡」


 何故か絵里さんは頬を赤らめながら、身体をくねくねとさせた。

 真剣な表情してたから、何事かと思ったら……

 本当、この人は変わんないな……

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