甘さ

「……」


 食べ始めてから何分経っただろうか。

 僕はひたすらパンを口に放り込んでは、モグモグとそのうまさを噛み締めていた。


 おいしい、本当においしい……

 これが食パンなのか……?

 いや、そもそもこれが本来のパンの甘さなのかもしれない……

 決まった、正確な時間、発酵させればここまで甘くなるのかもしれない……

 これぞ、パン。パンの王道だ……


「あああ……いいわぁ♡もっともっと噛み締めて……」


 そんな僕を見ながら、絵里さんは悶絶しながら、スマホを使って写真を連写で撮っていた。

 たまに「ハムスターみたい……♡」という感想が聞こえてきたりする。

 正直、すごく嫌だ。

 しかし、こんなパンを提供してくれて、いやパンだけじゃない。この人は恩人なんだ。

 写真を撮るくらい、別にいいじゃないか。

 そう思い、何もされていないかのように振る舞っているのだ。

 しかし……甘い……

 なんだこれ……








 ♦︎










「はふ……」


 結局、朝からたらふく食べてしまった……

 昨日、太るから気をつけようって思ってたばっかりなのにな……

 あー、美味しかった……


「このパン、美味しいわよね。私も好きなの。他にも種類があったから、今度買いに行きましょう?」


 パンを摘みながら、スマホを眺めている絵里さん。

 多分、僕の写真見てるんだろうな……

 たまにニヤけてるし……

 まぁ本人が幸せそうなら、それでいいや。


「他にも……夢がありますね……」


「ふふ。それより、今日は映画でも見に行きましょうか」


 スマホを操作するのをやめてから、絵里さんは言ってきた。


「映画?」


「昨日、夜中に映画色々観てたでしょ?なんか久しぶりに映画館で見てみたいなぁって思っちゃって」


「なるほど……」


 絵里さんのような人でも映画館とか行くんだな。意外だ。

 それにしても、映画を観に行くなんて、随分久しぶりだから楽しみだな。

 最近はどんな映画が上映されているんだろうか。


「暗い空間で晶君と2人きり……ああ、襲われたらどうしよう……♡」


 ワクワクも束の間。

 うん……不純な動機だったね……

 というか、襲わないよ……

 襲われるはあるかもだけど……

 まぁ他の人もいるだろうから、きっと大丈夫。


「それまで部屋でゆっくりしましょうか」


「はい」


 僕は椅子からソファに移動すると、早速絵里さんからもらったスマホを操作しだした。

 ほおお……

 これがスマホ……

 サクサクっと操作できる……

 しかし……うーん……まず、何をインストールすればいいんだろう……


「基本的なのは取ってあるから、ゲームとかのアプリ取ってみたら?」


 そんな僕を見て、椅子に座って、コーヒーを優雅に飲んでいた絵里さんが言った。


「あ、はい……」


 ゲームか……

 えっと、あ、これ好きだったアニメのアプリだ。

 よし、これを取ってみるか……


「ふふ、ふふふ……すっかりスマホに夢中な晶君……かわいすぎるでしょ……はぁはぁ……♡」


「部屋でゆっくり遊んできます……」


 はぁはぁするなよ……

 朝からずっと興奮しっぱなしじゃん……

 さすがに困る……


「待って!?謝るからここにいて!!」


 必死になって絵里さんは僕を引き止めてきた。

 その必死さに、僕は苦笑いを浮かべつつ、そのままリビングにいることにしたのだった。

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