激しいシーン

「ふぅ……」


 風呂から上がり、僕はバスタオルで頭を拭きながら、リビングへ戻ってきた。

 いや、全く本当にいい湯だった。

 やっぱり、お風呂は肩まで浸かるのが1番だよな。


「あ、やっと帰ってきた」


 テーブル椅子に座り、優雅に何かを飲んでいる絵里さんがリビングに戻ってきた僕を見てそう言った。

 お風呂に入って、20分くらいしか経ってないんだけどな……

 寂しかったのかな……

 いや、でも風呂に突撃しそうな感じが漂ってたし、違うのかもしれない。


「晶君も飲む?コーヒー」


「あ、はい。頂きます」


 僕は二つ返事で答えた。

 昼に飲んだあの美味しいコーヒーかな。

 絵里さんは僕が悔い気味に答えたのを見て、少し微笑みながら、コーヒーの準備を始める。


 意外なことに絵里さんはドリップするための容器を棚から取り出した。

 てっきり、豆から挽くのかと思ってたけど、違うのか……


 それから、コーヒーを置いたマグにお湯を注ぐ。


「はい、お待たせ」


「ありがとうございます」


 テーブル椅子に座った僕はそれを受け取って早速、一口。


 うん、美味しい。

 昼に飲んだのと同じやつだ。


「それでさ、何か食べる?お腹空いた?」


「あ、いや、それが全然……」


「そう。お昼寝もしちゃったし、寝るのはまだ先になりそうね」


 言って、絵里さんはスマホを操作しだした。


「晶君ってさ、映画とか好き?」


「映画ですか……?そうですね。まぁあまりグロテスクなやつじゃなければ」


 言って、苦笑する。

 海外のやつとかやたらグロいの多いもんな。

 それに、映画なんて小学生の頃に観に行って以来、行ってないかな……

 お金もなかったし……


「じゃあ、最初はこれにしましょうか……」


 絵里さんがそう言うと、それまで消えていたテレビの画面がついた。

 テレビには中学の頃にCMで見た事のある映画のタイトルが映し出された。

 これって、確かアクション映画だっけ。


「最近のテレビってつまんなくてさ、暇な時にストリーミングサービスの動画よく見てるのよ。これ、面白いから一緒に見ましょう?」


「あ、はい」


 ストリーミングサービスって定額制の動画配信サービスだっけ……

 スマホないからよくわかんないけど、とりあえず、昔、公開された映画が見れるみたいだ。


 そうして、僕と絵里さんは深夜の映画タイムに入るのだった。













 ♦︎











「はぁはぁ……」


 パニックの連続で混乱する頭を抱えながら、肩で激しく息をする。

 そして、そのまま、目の前の部屋のドアを恐る恐る開ける。

 そこは浴室だったようで、蛇口があった。

 他には何もない。おかしな現象も起きない。

 ほっと一息つきつつ、蛇口をひねると水が出てきた。

 ここにきてから、身体も随分と汚れてしまったので、ちょうど良いと蛇口から出てくる水で顔や腕を洗っていく。


 そして、はぁと息を吐き、蛇口の上に付いてある鏡に映る自分の顔を眺める。


「……!」


 次の瞬間、鏡に映っていた自分の顔がまるで屍のように醜く変貌してしまったので、たちまち恐怖に包まれ、慌てふためく。


「きゃー、こわーい」


 テレビにその映像が映ったタイミングで絵里さんは僕の腕を抱きしめるようにしてきた。


「怖すぎて、死んじゃいそう……晶君なんとかしてぇー?」


「いや、何とかしろと言われても……」


 というか、全然怖がってないよね?

 抱きつきたい口実を作っただけだよね?

 しかし、その豊満な胸が激しく当たってきて、ちょっと嬉しかったりもする……

 最も、こんなこと絵里さんには言えないけど……

 言ったら、もっと激しくしてきそうだし……

 決して、勿体ないなんて思ってはいない。

 ホラー映画を見始めたのは良かったが、驚かせるシーンがあるたびに、絵里さんは僕の腕を掴んでは、抱きしめてきた。


 映画は、まだ半分以上あるようだった。

 ずっとこのままっていうのも、ちょっと困るしな……

 その、色々反応しちゃうし……

 しかし、どう抜け出したもんか……


「んー、やっぱりホラーは嫌ねぇ。違うのにしましょうか」


 だが、何故かホラーを見ると選択した絵里さんが映画を変えることにした。


「もっと激しいシーンがあるところじゃないと……」


 激しいシーンってなんですか?!

 アクションのことだよね!?


「よし、これにしましょうか」


 そんな中、絵里さんが選択したのは世界的にも有名なファンタジー映画だった。

 確か、小説が原作のやつ。

 僕も大体の内容くらいは知っている作品だった。

 これなら、大丈夫かな……?

 内容もそこまで過激ではないし、何より健全だと思える。

 もし、これで絵里さん曰くの激しいシーンがあったとしたら、かなり疑問視される映画になっていることだろう。


 こうして、3本目の映画が始まるのだった。

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