ダーリン
「はぁ……」
朝からハンバーガーをたらふく食べたというのに、まるでそれがなかったかのような勢いでケーキを食べ進めていき、大満足したところで僕はフォークを皿の上に置いた。
めちゃくちゃ美味しかった……
名前がわかんなくて、今まで食べたことないケーキも沢山あったけど、とりあえず全部美味しかった……
特にあの中にマスカットが入ってるやつが、めちゃくちゃ美味しかった。
マスカットそのものも非常に甘くて美味しい上に、それがカットされて中に入っているから、スポンジとクリームとの相性抜群だった。
それに紅茶もまた上品で、スルスルと喉に入っていく。
おかげで何杯もおかわりしちゃったよ。
「大満足みたいね」
僕が幸せ混じりのため息を吐いたので、それを見ていた絵里さんが微笑みながら、言った。
「あ、はい……いやもう、どれも美味しくて最高でした」
「ふふ、ならまた来ましょうね」
穏やかに微笑む絵里さん。
「いきなり連絡来たと思ったら、まぁかわいい男の子とイチャイチャしてるのかよ」
すると僕達に向かって、そんな声が聞こえて来たので、そちらの方に目をやる。
白い帽子を被り、綺麗な顔立ちをした男性がこちらに向かって歩いてきた。
コック、いや、パティシエさんかな。
しかし、男性にしてはやけに高い声だったな……
「うちのダーリンがどうしてもここのケーキがいいって言うから来たのよ」
「ダーリン!?」
これまた聞いたことないワードが飛び出してきたぞ!?
「ほぉ……もしかしてその子が?」
言って、目を細める。
「婚約者の晶君よ。まだ未成年だから成人するまで結婚はしないけど、既に同棲もしてるし、夜はたくましいオオカミが私を襲ってるのよ」
「ほほ、かわいい顔して中々やるな」
「捏造がすごいんですけど!?」
たくましいオオカミって何よ?!
下ネタ全開じゃん!
「なんだ、嘘なのか?」
「やだ、照れてるだけよ」
絵里さんは手を叩くような仕草をする。
「照れてないよ!絵里さんとは訳あって、同居してるだけです!変な仲ではありません!!」
「なんだ、そうだったのか。いや、こんな変態にこんなかわいい婚約者が出来るわけないとは思っていたんだが、やっぱりだったか」
パティシエさんはため息混じりにそう言った。
「うるさいわね。あんただって、バイトの女の子に手ェ出しまくって、影で歩く生殖器なんて言われてるじゃない」
少し怒った様子で絵里さんは言った。
さっきまで静かな優雅な時間が過ぎていたのに、見る影もなく、下ネタ全開のこの空間……まさにカオスだ……
「私は別に悪くないだろ。それに女同士なんだから、大丈夫じゃないか」
「え、女同士……?」
その言葉に僕は驚いてしまう。
「え、ああ、そうよね。この見た目じゃ、女性だってすぐには気付かないわよね。ルカはこう見えて女性なのよ」
「え、ええー!めちゃくちゃ綺麗な男性かと、てっきり……」
背も高いし、顔立ちも綺麗だから、てっきり男性かと……
いや、正直男の僕よりイケメンなんだけど……
「はは、まぁ褒め言葉として受け取っておこう」
ルカさんは苦笑しながら、言った。
「昔からこの外見だから、そこいらの男子よりモテてたわよ」
「へ、へぇー……」
こんな女性、本当にいるんだな……
びっくりしたよ……
確かにそこいらの男性よりイケメンだもん……
「それじゃ、私は仕事があるのでそろそろ戻るが、この後もゆっくり堪能してくれ。ああ、そうだ、少年。くれぐれも気をつけたまえよ」
最後に僕だけに聞こえるように耳元で不安の残る言葉を言い残しながら、ルカさんは去っていった。
「何よ、2人だけで話しちゃって」
「ああ、いや、別になんでもないですよ……また来てくれって言われただけで……」
僕は慌ててそれっぽい言葉を口から出した。
「まさか、あの子、晶君狙ってるんじゃ……だめよ、あの子だけは。そもそも渡すもんですか」
少し拗ねたように絵里さんは言った。
「ははは……」
乾いた笑いを浮かべながら、僕はカップに入った紅茶を飲み干した。
気をつけろって……まぁそういうことだよね……
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