VIP

「さ、着いたわよ」


 タクシーに乗ること10分ほど、目的地に着いたのか、タクシーが止まった。


 結婚式場じゃないよな……


 少し不安に駆られつつ、タクシーから降りる。

 やってきたのは、結婚式場……ではなく、オシャレなカフェだった。店の中だけでなく、外にもテーブルとイスが設置されており、外の風景を眺めながら、お茶ができるようになっている。


「さ、入りましょう」


 建物をジッと見つめている僕に声をかけ、絵里さんは先に中に入っていった。

 僕もそれに慌てて付いていく。


 中には満席と言っていいほど、人がいて埋まっており、かなり賑わっていた。


「いらっしゃいませ……って、あ、絵里さん」


 案内しようとした女性の店員さんは絵里さんの顔を見て、すぐに名前を言った。

 どうやら、知った顔のようだ。


「さっき、ルカに電話したんだけど、空いてるわよね?」


「はい、お伺いしてます。ご案内しますね」


 店員さんはそう言うと、店の中へと進んで行き、絵里さんもそれに付いていったので、僕も習って進む。

 店の奥に進むと、ドアがあり、そこを開けると中庭のような場所が目の前に広がっていた。

 繁華街の一角にあるはずのカフェだと言うのに、どこか自然を感じさせる不思議な空間だった。

 そして、そこにはテーブルとイスが一式のみ、ポツンと置かれてあった。


「今、セット持ってきますね」


 僕達を案内したあと、店員さんはそう言って、去っていった。


「さ、座りましょう」


「……」


 僕は返事もせず、ただ言われるがままにイスに座った。絵里さんも向かい側の席に座る。

 なんだよ、ここ……

 完全にVIPが入れる場所みたいになってるじゃん……

 全然店内の声とか聞こえてこないし……


「もしかして、びっくりしてる?」


「はい……めちゃくちゃ……」


「私に惚れてる?」


「ほれ……え?」


 今、なんかおかしなワードが聞こえてきたぞ……?


「ああー!もう!なんでそこで気づくかな?!もう流れで言っちゃえばいいじゃん!」


 悔しそうに絵里さんはテーブルをダンと叩いた。なんで僕が怒られてるんだ……?


「お待たせしました」


 その時、ある意味、タイミングよく店員さんがカートのようなものを押しながら、やってきた。

 そこにはポッドにソーサーにカップ、それに沢山の種類を揃えたケーキの大皿が乗ってあった。


「失礼します」


 そして、僕と絵里さんの前にソーサーを置き、その上にカップを置くと、ポッドの中の飲み物を注ぐ。

 香りからして、紅茶だろうか。

 非常に香り深い匂いが漂ってくる。


「お砂糖はいくつになさいますか?」


「え、あ……じゃあ2つ……」


「かしこまりました」


 そうして、店員さんは僕のマグに角砂糖を2つ入れてくれる。

 そこまでしてくれるんだ……とつい思ってしまう。

 それから、まずは2種類のケーキを皿に乗せ、僕達の前に置いてくれる。


「御用があればお知らせ下さい。それでは、失礼します」


 深く頭を下げた後、店員さんは去っていった。


「それでは晶君、御所望のケーキです。いっぱい食べてね」


 ニコッと微笑む絵里さん。

 その笑顔を見て、僕は何故か顔が赤くなるのを感じ、それを隠すようにケーキに目をやり、食べ進めるのだった。

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