婚約者
「えーっと、これとこれとこれと……あ、こっちもいいわね」
繁華街の一角にある大きな建物。
その中に全国チェーンのアパレルのお店があり、そこに入る。
店に入った瞬間に、絵里さんはカゴを手に取り、それを片手に次々と目についた服を中に放りこんでいく。
「そ、そんなに買うんですか……?」
その量の多さにたまらず、そう尋ねてしまう。
「うん、まぁね。もし、着ないやつがあるんだったら、それはどこかに寄付とかすればいいし」
「そう……ですか……」
やっぱりこの人の金銭感覚は僕とかなりズレている気がする……
勿体無くて、普通にそんなにバカバカ服買えないもん。それにずっと貧乏だったから、服を買う機会もあまりなかったし。
「ちょっと、これ持ってて」
「え、あ……って、おお!?」
絵里さんが渡してきたのは服が溢れんばかりに入ったカゴだった。
予想外の重さだったので、少しびっくりしてしまった。
「パンツとか選んでくるわね。あ、欲しいものがあったら、手に取ってていいから」
そう言って、絵里さんは足早に僕の前から去っていった。
欲しいものって言われてもな……
ファッションに敏感なわけでもないし、別に……
と思ったのだが、棚に置いてあるリュックに目が止まる。
うーん……借金もなくなったことだし、こういうのを背負って、誰かと出かけたりしたいよなぁ……
まぁ小遣いがないんだから、出かけたとしても遊びに行くところがないんだけど……
「お待たせ…-ってあら?それほしいの?」
僕がじーっとリュックを見ていたので、絵里さんはそう聞いてきた。
「え、あ……」
「じゃあ、買っときましょうか。晶くんも出かける時、何かないと不便だもんね」
言って、棚に置いてあったリュックを手に取り、それをカゴに入れる。
「あ、ありがとうございます……」
僕は頭を下げた。
僕の心を察してくれたんじゃないかと思ったからだ。
「気にしないで、じゃあ買ってくるわね」
軽く微笑みを浮かべた後、絵里さんはカゴを両手に持ち、会計へと向かった。
あまりの量に店員さんが総動員されていた。
しかし、そんな状況でもチラチラと絵里さんのことを見ている店員さんがいたので、やはりこの人の美貌はすごいんだなと改めて思った。
ちなみに合計金額は10万2580円で、量がありすぎたので、必要なもの以外は特別に宅配便で送ってもらうことになった。
「さて、買い物も終わったし、なんかおやつでも食べにいこっか」
建物を出ると絵里さんがそう口を開いた。
「おやつ……ですか」
「そう。晶君、食べたい物ある?あ、ハンバーガー以外でね」
絵里さんは苦笑しながら、言った。
「わかりました。そうですね……ケーキとか食べたいです……」
僕は少し笑いつつ、素直な意見を出した。
「ケーキね。オッケー」
言って、絵里さんは携帯を取り出し、画面を操作したかと思うと、電話をし始めた。
「あ、もしもし?突然で悪いんだけど、今から2人いける?うん。うん。え?やだ、違うわよ。婚約者よ」
「ちょっと不穏なワードが聞こえたんですけど!?」
婚約者って何!?
まさか僕のことじゃないよね?!
「うん。これからタクシーで向かうから、すぐに着くはずだから。うん、じゃあね」
そして、電話して終え、携帯をしまう。
「さ、行きましょうか。もうすぐタクシー来るから」
「え、いや、ちょっとさっきの会話なんですけど……」
婚約者って何よ……
大体まだこっち未成年よ……
「え?ああ、知り合いのお店に電話してたのよ。美味しいケーキ屋だから、きっと気に入るわ」
「いや、そうじゃなくて……」
「あ、きたきた」
タイミングがいいのか、悪いのか、タクシーが目の前に到着してしまう。
「さ、行きましょうか。ウエディングケーキの下見に……」
「そっちのケーキ!?普通のがいいんですけど!?」
タクシーに乗って、本当に大丈夫かな……!?
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