同棲

「はぁ……」


 食べ始めてから、1時間が経った頃。

 はちきれんばかりのお腹を抱えながら、僕はため息を吐いた。

 久しぶりにこんなお腹いっぱいになるまで、食べたな……ものすごく満足したけど、苦しい……

 しかも、色んな感情がごちゃ混ぜになって、なんか疲れたな……


「少し休んだら、今度は買い物に行きましょうか」


 ソファに移動し、大きくなった腹をさすっている僕の前に食後のコーヒーを運んでくれた絵里さんがそう言った。


「買い物……ですか?」


 受け取ったコーヒーをずずっとすすりながら、僕は尋ねた。

 う……お……なんだ、このコーヒー……

 めちゃくちゃ香りが強いな……

 それに甘い。

 飲んだことない味だ……

 美味しすぎるじゃないか……

 こんな美味しいコーヒー毎日飲みたいぞ。


「そう。晶君のね。一緒に住むんだから、必要なものもあるでしょ?」


「え、あー……い、一緒に住むですか……」


「え、まさか出ていくなんて、言わないわよね?あなたの借金を返したの、誰だったかしら……」


 とぼけたように明後日の方向を見ながら、絵里さんは言った。


「あー……絵里さんです……」


「ご名答♪それに固く考えなくても良いのよ?同棲するんだと考えれば、不自然なことは何一つないわ」


「そ、そうですね……」


 昨日までボロアパートに住んでいた僕がいきなりタワマンに住んでる美人なお姉さんと一緒の部屋で生活するなんて、状況を飲み込めっていう方が無理な気がするんですけど……


「あ、その前に行きたい場所があるんですけど、いいですか?」


「え、もしかして、結婚式場……?だめよ、そんな……あなた、まだ未成年なんだから、せめて成人するまで……気持ちは嬉しいけど……」


「あ、いや、違います」


 なんでそういう発想になるんだよ……?

 あと身体もじもじするのやめて。その、色々と見ちゃうから……脚とか胸とか……

 すごいんだから、身体が。


「なんだ、違うの……で、どこに行きたいの?」


 少し残念そうにする絵里さん。

 なんで、残念そうなんだよ……

 というか、この人のスタイルなら引く手数多な気がするけど。不思議だよね。


「あ、はい、住んで……たアパートに行きたくて」


 住んでた。なのか、住んでる。なのかで少し迷ってしまった。しかし、住んでるって言ってしまうと、なんかややこしくなりそうだし、住んでた。にしておいた。


「ああ、なるほど。あ、あなたが着てた制服、クリーニングに出してるから。来週には仕上がるそうよ」


「え、あ、ありがとうございます……」


 きっと雨に打たれて、ぐしょぐしょになっていただろうな……

 絵里さんは、少し変態なところもあるけど、根はすごく良い人なんだよな。こんなに色々やってくれるし、借金まで返してくれるし。

 まぁ動機がかなりおかしいんだけど……


「晶君の前のおウチはここからどれくらいなのかしら?」


「え、あ、そうですね、多分ここから歩いて20分くらいかと……」


「そしたら、タクシー呼ぶわね。歩くの大変そうだし」


「あ、は、はい……」


 たった20分ですら、タクシー呼ぶのか……

 僕には考えられないな……

 1時間くらいなら余裕で歩くし……


「じゃあ、2時間後くらいに行きましょうか?」


 言って、時計の方に目を向ける。

 今はまだ昼の11時を少し過ぎたくらい。


「わかりました」


「さて、私は今のうちに……」


 言って、スマホを取り出し、ススっと操作していく。

 何してるんだろうか。


「晶君ってさ、自分のお部屋に何が必要かしら?」


 スマホに目を向けながら、絵里さんはそう聞いてきた。


「え、部屋ですか……?そうですね……」


 家具なんてほとんど無かったから、いきなり言われても思いつかないな……


「まぁ学生さんなんだから、机はいるわよね。あとはテーブルとソファとテレビくらいでいいかしら?他に何か必要なものがあれば、いつでも言ってね」


 言って、捜査を終えたのかスマホをしまう。


「あ、はい……」


 既に充分なのに、これ以上なんて望みすぎな気がする。

 どうやら、家具や家電を購入していたようだな。

 いや、本当……この人の財力は底知れないよな……

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