思い出と餌付け
「……」
絵里さんの自宅に帰ってきた僕達は早速、届けられていたハンバーガーを食べることにした。
それにしても、なんて量だ……
軽く10人分はありそうだぞ。
ポテトもナゲットもドリンクもたんまりある。
しかし、僕にとってはご馳走以外の何者でもない。
「さ、食べましょうか」
「はい……」
向かい合うようにテーブル椅子に座り、ハンバーガーを1つ手に取る。そして、包みを開いていき、ガブっと勢いよくかぶりつく。
うん、やっぱりおいしい。
久しぶりに食べたな。
少し前までは、これが僕のご馳走だった。
そして、母との思い出のご飯でもある。
「……」
心の中で母のことを思い出すだけで、涙が溢れてくる。
ハンバーガーを噛み締める度に、どんどんと涙が溢れる。
「……」
そんな僕を見て、絵里さんは何も言わずにティッシュを差し出してくれた。
僕はそれを見て、食べ終えていたハンバーガーの包みをまとめると、そのティッシュを受け取って、目元の涙が拭いた。
「美味しくて、泣いてるってわけじゃなさそうね……」
僕の心を察してか、小さく呟くように言う。
「はい……このハンバーガーは母との唯一の思い出なんです」
「晶君のお母さん?」
「はい。母は僕が中学に入ってすぐに亡くなりました。父の作った借金を返そうと毎日、身を粉にして働いていたんですが、そのせいで無理が祟って、亡くなってしまいました。亡くなる前、よく母とこのハンバーガーを食べに行ってたんです。ウチは貧乏だから、高いお店に連れていけなくてごめんねって、いつも謝りながら、買ってくれました。いつもそこで大きくなったら、どうしたいとか、もっとお母さんを楽させてあげたいとか、夢を語っていむした。だから、どんなに高級なご飯があったとしても、このハンバーガーにはそれを超えるだけの思い出があるんです……」
「そう。思い出のハンバーガーなのね……」
小さく呟くように言ってから、絵里さんはハンバーガーに口をつけた。
「ほらほら!ハンバーガーはまだまだ沢山あるんだから、食べて!あ、ポテトであーんもね……」
少し暗くなってしまったので、それを消すように絵里さんはわざと大きな声で言ってから、ポテトを差し出してくる。
「え、あ……はい……」
僕は少し戸惑いつつ、ポテトを一つ掴み、それを絵里さんの前に差し出した。
「あー……ん♡……おいしい……♡」
ものすごく幸せそうな笑みを浮かべながら、絵里さんはもぐもぐと口を動かした。
なんか感動的な場面が台無しな気がするんですけど……
「餌付けされてる感覚がもうたまんないわ……♡闇付きになりそう……」
言って、再びポテトを差し出してきた。
これは……全部やらされるパターンだな……
僕は心の中でため息を吐きつつ、ポテトを掴むのだった。
そして、予想通り、一箱が空になるまで絵里さんにあーんを続けるのだった。
その度に身体をくねくねさせていて、何故かこっちまでドキドキしてしまうのだった。
「これで私にも思い出ができたわ……」
ふふふと怪しい笑みを浮かべる絵里さん。
やっぱり、変態なんだなぁ……と実感してしまうのだった。
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