返済と目的

「これで確かに全額払ったから、もう連絡して来ないでね」


 机の上に札束を置き、目の前に座る人物に言う。


「もちろんだ。きちんと金さえ払ってくれれば、何もしねぇよ。ところでお姉ちゃん。いい身体してんな。どうだ?うちの店で……」


 スーツを着た、いかにもヤクザの顔立ちをした男性がサングラスを外しながら、絵里さんの身体をじっくりと見ながら、言う。

 この人に借金を作ったせいで、僕は大変な目にあっていたわけだ。

 しかし、それも絵里さんのおかげでなくなる。どうも、話が上手くいきすぎている気がしてならない。


「残念。あいにく私が上玉過ぎて、お店のお客、全部取っちゃって、女の子全員やめちゃうから、遠慮しとくわ」


 そのせりふは嘘には聞こえなかった。


「はは!そりゃ困るな!おい、ボウズ。良い人に出会ったな。もうこんなとこ来るんじゃねえぞ?親父にも言っとけ」


「は、はい……」


 お父さんか……

 今どこで何してるんだろうか。


 そんなことを思いつつ、僕達は雑居ビルから出て行くのだった。


「さて、やることも終わったし、ご飯でも食べに行きましょうか」


 道を歩いていると絵里さんがそう言った。

 だから、僕はこのタイミングで思い切って聞いてみることにした。


「あ、あの……なんでここまでしてくれるんですか?世話をするだけじゃなくて、他人の借金まで払ってくれるって、普通に考えておかしいですよ……何か目的があるんじゃ……」


 でなきゃ、誰があんな大金を払うだろうか。

 見ず知らずの、しかも学生に。


「目的ね……確かにあるわよ……それは、ズバリ!童顔高校生男子とイチャイチャ暮らしたいって目的が!!」


「……はっ……?」


 予想もしてなかった言葉が出てきたので、たまらず、素っ頓狂な声を出してしまった。


「だって、君の顔、私の好みにドンピシャなの!そんな子が行き倒れてたら、助けるでしょ?!あああ、早く家に帰って、お世話したあげたい……」


 絵里さんは何故か震えだす。

 いや、これは悶えてるんだな。妄想のせいで。


「お、お世話って……」


 まぁ童顔なのは認めるが……

 それで変なバイトにもやらされていたわけだし……

 ああ、嫌な思い出だ……


「ご両親はいないんでしょ?だったら、ウチに来ても問題ないわよね。あ、大丈夫よ。移住食は完備してあるから。性活の方も私に任せておけば……ふふ、安心よ……」


 なんだろう。今、危ないワードを聞いてしまった気がする。気のせいかな。


「それにご両親がいないんなら、挨拶も必要ないし、ヤリたい放題よね」


 何がヤリたい放題なんだろう。

 あと携帯のプランみたいに言わないでほしい。


「でも、まさか出ていくなんて言わないわよね……?借金返したの誰かしら……」


「あ、絵里さんです……お世話になります……」


 たまにこのサイコパスな顔、怖いからやめてほしい。今すぐにでもドミなんとかが反応しそう。


「そうよね。良かった。それより、ご飯よね。どこにする?築地のお寿司でも食べる?」


「いや、さすがにまだ朝なので寿司は……」


 まだ朝の9時過ぎだぞ……

 食べたいけど、この時間は早過ぎる。


「じゃあ、何?お肉?良いお店知ってるわよ。連絡すれば、すぐに開けてくれるはずだから」


「いやいや……えーっと、あの、ハンバーガーが食べたいですね……」


「ハンバーガー?そんなものでいいの?」


 予想外のワードが飛び出してきたからか、絵里さんは操作していたスマホをやめて、こちらを見てきた。


「はい……」


「ふーん。まぁあなたがそういうなら。じゃ……」


 言って、再び携帯を操作をする。


「家に帰れば届いてるはずだから、帰りましょうか」


「あ、はい……」


 デリバリーの手配をしていたのか。


「あ、ポテトであーんとかできるじゃない……ふへ、ふへへ……」


 するといきなり、荒い呼吸を始める絵里さん。

 そして、ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべる。

 美人なのに……なんか残念な人だな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る