裸の付き合い

「な、何やってんですか!!?」


 僕は身体を隠すように深く湯船に浸かった。

 そして、近くにあったタオルを急いで下半身に巻いた。

 よ、よかった……身体を洗う用のだけど、タオルがあって……


「何ってお風呂?身体洗ってあげようと思って」


 言いながら、湯船に入ってこようとする。


「ああああ!!か、身体なら洗えますから!大丈夫です!!」


 僕は慌ててその進行を食い止めようとする。

 なんで何の迷いもなく、入ってこれるんだよ!?


「えー、でも、背中とか手が届かないでしょ?お姉さんが洗ってあげるから。もちろん、背中だけじゃなく、全身余すところなくね……?」


 言いながら、舌をペロッと出し、妖しく微笑む。

 ぜ、全身って……あそこもですか……?

 そう思ってしまったのは思春期男子の性というものだ。


「と、とにかく大丈夫ですから!!」


 しかし、誘惑に負けず、何とか断る。


「あなたを助けたのは私なのになぁ……そうやって、意地悪するんだ?」


 しかし、お姉さんは僕を見下ろすようにしながら、寂しそうに口を開く。


「い、意地悪なんかじゃ……」


「あーあ、あなたのために色々買ったのになぁ。お金かかったのになぁ……それにお風呂にも入れなくて寒いなぁ……」


「う……」


 それを言われると心が辛い。


「なのに、そんなこと言うんだ?」


「わ、分かりましたよ……でも、洗うのは背中だけで……お願いします……」


 それ以上は僕の心が持たんと思うから……


「了解♪」


 お姉さんは嬉しそうに微笑んだ後、湯船へと入ってきた。

 そして、ずずずとこちらに近寄ってくる。


 ち、ちか……

 嫌でも、お姉さんの肌が目に入ってしまう。

 風呂に入っているから、やけに色っぽく感じて……

 胸だって、谷間がもう大変なことに……

 大混雑してますよ……


「ねぇ」


「え……?」


「さっきから胸、見過ぎなんだけど……」


 言って、身体を斜めに晒して、隠すようにした。


「あ……す、すいません……」


 僕は慌てて顔を逸らした。

 魅力的すぎる余り、凝視してしまった……

 これじゃ、お姉さんも嫌がるのも当然だよな……


「バスタオル邪魔なら取るけど?」


 言って、バスタオルに手をかけ、取ろうとする。


「ちょ、ちょ、ちょ!!?」


 嫌がってたんじゃないの?!


「いや、バスタオル取ってほしいって顔に書いてあったから……」


「そ、そんなこと思ってませんよ!!」


「んもー、ピュアなんだからー」


 お姉さんは意地悪そうに微笑みながら、バスタオルの位置を元に戻した。


 あー、焦った……

 ちなみに、ちょっともったいないかも……と思ったのは、ここだけの話にしておいてほしい。


「そういえばさ、名前教えてもらってもいい?」


 向かい合う形で浴槽に浸かっていると、お姉さんがそう聞いてきた。


「あ、宍倉ししくら あきらです……」


 三角座りで浴槽に浸かりながら、僕は言った。この体勢じゃないと大事な部分がノーガードになってしまうからだ。

 タオルを巻いてるとはいえ、念には念を。


「晶君ね。私は篠宮しのみや 絵里えりよ。気軽に絵里って呼んでね?」


「あ、はい。じゃあ、絵里さん……は、何してる人なんですか?」


「投資家かな」


「と、投資家!?」


 予想外のワードについオーバーリアクションを取ってしまう。


「私の両親が資産家なの。で、私が成人する前に亡くなっちゃって、その資産を受け継いで、それを運用してるのよ」


「そ、そうなんですか……」


 すげぇ……

 そんな人、本当にいるんだ……


「こうしてる間にも、どんどん増えてるから、お金の心配はしないでいいからね」


「は、はい……」


 羨ましいな……

 お金の心配しなくていいなんて……


「それでさ、晶君は何であんなところで倒れてたの?」


「あ、はい……実は借金を抱えてまして……」


 暗い話になるから、あんまり話したくないんだよな……


「借金?」


「はい……借金自体は父が作ったんですが、どこかに消えてしまって……それで僕が返すためにバイトを掛け持ちしてたんですが、遂に身体が限界を迎えて……」


 ああ、最悪な記憶だ。思い出すだけでも、憂鬱になる。

 高校に上がってすぐ、父は蒸発した。

 タチの悪い街金からお金を借りていたのは知っていたが、まさかいなくなるなんて思っても見なかった。

 そして、その日から借金を返すためにせっかく入った学校も休学して、バイト三昧。

 しかし、バイトをしたところで借金は減るどころか、利子がかかってるから、ほとんど減らない。

 そんな状態で生活して、早2ヶ月。

 睡眠時間もろくに取れず、毎日動き回っていたから、遂にガタが来て、ぶっ倒れてしまったわけだ。


「んー、借金っていくら?」


「え……確か800万くらいだったかと……」


 これを返すのにあと何年かかるんだと思うと、胃が痛くなるほどだ。


「あ、意外と少ないのね。じゃあ、返しに行きましょうか」


「あ、返しにって……?」


 それに少ないって……

 800万だぞ?800円じゃないんだぞ?


「とりあえず先に身体洗いましょうか」


「あ、はい……」


 言われるがまま、僕は浴槽から上がり、洗い場用の椅子に座り、身体を洗い始めた。

 そして、その後、お姉さんが背中を洗ってくれた。

 年上の、しかも、美人なお姉さんに身体を洗ってもらう経験なんてなかったから、背中を洗い終えるまで、心臓がドキドキしっぱなしだった。

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