ルナの戦い
「人間なんかを頼るからそうなるんだ、ソル」
男――ルナは意識を失い倒れるアサヒへと近づき、身に着けたその腕輪に蔑むような声で語り掛ける。
「そこで這いつくばって見ていろ」
彼はそう言ってブラードへと向き直ると、左腕を振るい光の剣を出現させる。
「ドアッ!」
そして掛け声とともに駆け出した――
※
今ここに開始された一人と一匹との戦闘。ブラードは長い下半身を真横にして打ち下ろす。側面に付いた刃を揃えた大剣が、ルナを狙う。
「ドアァッ!」
しかし彼はそれを回避せず、そのまま直進。光剣を振るって下半身を真っ二つに切り飛ばす。
そして急ブレーキをかけると、右手から弓状の光弾を放ち上半身を狙い撃つ。
ブラードの上半身は大きく仰け反るも、その下半身は違う。アサヒにそうしたように、飛び掛かり巻き付かんとする。
が。
「フン……」
彼には既にお見通しだった。一瞥し鼻で笑うと、
「ドァ!」
光剣を突き出し、帯状の細い光線に分裂させる。それらは別々の方向へ飛散し、下半身の節々にある目玉全てに直撃する。
得意の不意打ちを回避されたブラードは驚愕し、動きが止まる。
その隙を逃さず、ルナは飛んだ。
「ドゥアッ!」
彼はブラードを切り裂かんと横一文字に光剣を振るう。しかしブラードは咄嗟に体を後方へ反らし回避する。が、完全にはかわし切れず左顎の先端を切り飛ばされてしまった。
ブラードはそのまま地中へと潜り、この場から撤退。間もないうちに、洞窟内には静寂が戻った。
「フン、逃げたか」
ルナはつまらん、といった具合に吐き捨てると、再びアサヒのもとへと近づく。
そしてその姿を若い男のものへと変えると、アサヒの体を抱え上げる。
《何をするつもりだ》
「まだ死なれては困る」
警戒した様子でテレパシーを発するソルに対し簡潔にそうとだけ答えると、ルナは洞窟の出口へと向かって歩き始めた――
※
その数十分後。先ほどまで戦闘が行われていた地で、何かを探す人影が二つ。
その正体は――
「あ、あったよ兄さん!」
「でかしたぞ弟よ!」
あの二人だった。彼らはソルに逃がされた後、実はこっそりと戦いを見ていたのだ。
なぜそんなことをしていたのか?その答えが――
「こいつを王都で売りさばけば、しばらく暮らせるだけの金が手に入る!」
モールの手に握られているのは、大きな玉虫色の欠片。先ほど切り飛ばされた、ブラードの左顎の先端だった。
彼らはこれを売りさばくことで、生活費の足しにしようというのだ。
「やったね兄さん!」
「うむ。早速向かおうか、弟よ!」
静かな洞窟内に、がはははというような、彼らの笑い声が響き渡っていた――
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