それぞれの思惑
――そうして、話は現在に至る。ルナにより運び込まれた修道院のベッドにて、アサヒは実に3時間のもの間、全身を蝕む毒に苦しんでいたのだ。
普通の人間であればとうに命を奪われているところであったが、ソルが腕輪を介して生命エネルギーを与え続けることによって何とか死を免れている――そんな状態だった。
拭けども拭けどもあふれ出る汗に、下がらぬ体温。シスターたちは必死の様相で彼を介抱し続けていた。
「せめて、毒の成分さえ分かれば……」
一人のシスターがつぶやいた。毒を持つ生物はこの世界にごまんといる。しかし今彼の体に広がっている毒は、見たことも聞いたこともない種類のものだったのだ。これでは、治癒魔法をかけようがない――先の見えない恐怖に、彼女の焦りはさらに加速する。
こうなるのも無理のない話だった。この毒の持ち主――ブラードは、この世界で生まれた生物ではない。次元奴隷商達が作り出した生物兵器だったのだ。
「ああ、神よ!我々にこの者を救えはしないのですか……!」
彼女は天を仰ぎ、そう呟いた――
※
所変わって、ここは天に――宇宙に位置する次元奴隷商達の基地。数名の隊員が、巨大なカプセルを運び込んでいた。
「識別コードA-100・ブラードの回収が完了しました」
その中には、下半身を無くしたブラードが緑色の液体に浸けられていた。
「ご苦労。あちらに運び込んでおいてくれ」
「はっ」
上司であろう男が、隊員に指示を出す。ブラードの入ったカプセルは、分厚い扉の向こう側へと運ばれていった。
「ブラードの下半身は高熱を帯びた鋭利な刃物で切断された模様です」
その様子をモニター越しに見つつ、部下が報告を行う。
それを聞いていたのは――『ボス』。
「そうか。では、強化改造を行うよう手配。完了次第再度投入したまえ。」
「はっ、承知いたしました」
「では、下がりたまえ」
そう言って、『ボス』は部下を退出させる。
「『太陽』、そして『月光』……二人の勇者が揃うとは」
「これは面白いことになりそうだ……!」
彼は一人、邪悪な笑みを浮かべていた――
※
「ねぇ、兄さん」
「何だ、弟よ」
――三度所は変わり、異世界。あの兄弟は今、王都を目指していた。しかしその足取りは重く、表情にも元気はない。せっかく目当てのものが手に入ったというのに、何故だろうか。
「これ、ほんとに売るの?」
「……ああ」
モールが欠片を見せながらそう言うと、トールは目を合わせずに答えた。
「やっぱり、これで解毒剤とか作れるんじゃ――」
「言うんじゃないっ!」
弟の言葉を遮り、兄が叫ぶ。
「いいか、俺たちにも生活がある。あの青年は――そう。運が悪かったのだ」
「けど……」
「いいから行くぞ!」
トールは弟の言葉を半ば無視し、先へ先へと急ぎ始める。
モールは一瞬立ち止まって後ろを見たが、そんな兄を追い、彼もまた走り出した――
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