月光、現る

「うわあぁぁぁーーっ!」

「ぎぃやぁぁぁーーっ!」

一方、アサヒ。せっかく二人を撒いた彼だったが、悲鳴を聞きつけ急行していた。


「ったく、何なんだよアイツら!」

《どうする?無視するか?》

「んなこと出来るかよ!」

《ああ、そうだな!》



「っ!あいつは……!」

悲鳴がした地点まで駆け付けたアサヒ。彼が見たものは――


「「たっ、助けてくれーっ!」」


兄弟を長い体の下部で巻き付け捕縛している、全長50メートルはあるムカデのような怪物だった。

そう。これこそが酒場で耳にした『ムカデのバケモノ』――劇毒刃獣ブラード!

胴節それぞれに巨大な眼を持つその異形は、顎をがちがちと鳴らしながら、一斉に視線をアサヒに向けていた。


「ソル――――ッ!」

アサヒは叫び、すぐさまソルと一体化。光となって宙を舞い、すれ違いざまに手刀一閃。

ブラードの下半身を切断する。


(早く逃げろっ!)

解放された二人に対し、首を振ってそう伝えるソル。彼らはうんうん、と涙ながらに何度も頷くと一目散に逃げだしていった。


「ハッ……!」

それを見届けてから、ブラードの上半身を見据えて構えを取る。

しかし、彼らはまだ気づいていなかった。この怪物の持つ、恐ろしい秘密に――


「ウゥッ!?」

ソルが攻撃を仕掛けるよりも早く、彼の体に違和感が生じる。まるで何かに巻き付かれたような感覚だった。


《これは……奴の下半身か!?》

(そんな!さっき切り飛ばしたはずだろ!)

その正体はすぐに判明した。先ほど斬り飛ばしたブラードの下半身が、ソルの全身に巻き付いていたのだ。


「シャアアア!」

敵意をむき出しにし急接近するブラード。


「ムゥン……トゥアッ!」

ソルは全身に力を込めると、巻き付いていた下半身をバラバラに吹き飛ばして脱出。素早く顎を両手で捕まえると、そのまま腰をひねり、勢いよく壁面に叩きつける。

だが。


《何っ!?》

その体はいともたやすく四散してしまった。違和感を覚え、辺りを見渡す。

すると――


「トッ!タァッ!」

なんと四散した体が、それぞれに意志を持って襲い掛かってきたのだ。ソルは蹴りで、拳でそれを弾き飛ばす。


(くそっ、このままじゃジリ貧だ!)

攻撃をさばきながら、アサヒは毒づいた。

洞窟の内部というこの状況では、威力の高い技を下手に使うことができない。仮に使ってしまえば最悪崩落が起こり、少なくとも、あの兄弟が危険に陥る。

それだけは、あってはならない――その焦りが、隙を生んだ。


「グアァッ!」

グサリ!ソルの右脚に、鋭い痛みが走る。見ると、背後から襲い掛かったブラードの頭部が右脚に顎を食いこませていた。


(あっ、ああっ!ぐあぁぁーーっ!)

直後。別種の激痛を感じたアサヒが、精神内で悲痛な叫びをあげた。

《アサヒっ!どうした!》

精神体であるソルにはその感覚はわからない。痛みを感じているのは、あくまでアサヒの体なのだ。

(か、らだが、熱いっ……!痛いっ……!)

《まさか……毒か!》

そう、そのまさかだった。ブラードの顎から分泌される強力な毒素が、アサヒを蝕んでいるのだ。


「ウッ……アアッ……ア……」

ソルは弱々しいうめき声をあげると、その場に倒れ伏す。同時にその姿はアサヒのものへと戻ってしまった。

全身を元に戻したブラードは、その様子を見て勝ち誇ったかのようなリズミカルさで顎を鳴らす。そしてアサヒを食い殺さんと、にじり寄る――

が。


ピシュン……ジャキィ!


風切り音とともにどこからともなく放たれた鋭い光が、それを阻止した。

予期せぬ攻撃に驚き、すべての眼をその方向へと向けるブラード。

そこには――


「随分と無様な姿だ――『太陽の勇者』」


青い体の上に、堅牢な鎧を纏った謎の存在が立っていたのだ。

彼は乳白色の瞳を輝かせ、じっとブラードを見据えていた。

《君は……まさか……》




それを腕輪の内部より見たソルは――




《ルナ……!!》


かつての戦友の名を呼んでいた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る