その頃テルロは 最終話

 専属騎士の任をもぎ取った私は、騎士団での仕事の引継ぎをしていた。

 実績を付ける為に多くの任務に手を付け過ぎて中々終わらない。

 そんな折、監視役の騎士仲間がアスターからの手紙を持って来た。


 「よう。相変わらず忙しそうだな」

 「そっちは随分とアスターに甘えている様だな?」


 アスターの手料理の噂は既に騎士中に広まっている。

 私が居ない隙に監視役を希望する者が多く出ているらしいが、それもあと少しで終わりだ。

 その日が近付くにつれ、私は仲間から妬まれる様になった。


 「くっそぉ。お前は良いよなぁ、これから毎日殿下の飯が食えて」

 「私の目的はアスターの手料理ではなく、護衛なのだが」


 勿論日々腕を上げていくアスターの手料理も楽しみではあるが。


 「それで?ランゼは手紙を預かって来たのではないのか」

 「ああ。そうだった、そうだった。

 ほい、これ。結婚式の招待状」


 騎士仲間ランゼは先程迄の悔しそうな顔から一転、飄々とした調子でそう言って手紙を手渡した。

 結婚式。

 そうか、あのアスターが……。

 受け取った手紙を開き、流麗な文字を読めば感慨深くなってくる。


 「結婚式……?」


 そこに第三者が現れた。

 声だけでわかる。

 否。この城に勤めていて声でわからぬ者は騎士を辞めた方が良いだろう。


 「「……陛下……」」


 私とランゼの声が重なった。


 「結婚……?アスターが?」


 どうやら監視役が報告に帰って来たと聞いて直接話しを聞きに来たようだ。後ろに付いて来た護衛騎士が教えてくれる。


 「わしには何も来ておらぬぞ?」

 「恐れながら申し上げます。平民の結婚式に普通、陛下を招く事は出来ません」

 「わしが国王だからいけないのか?それだけで息子の結婚式にも出られぬのか?」

 「恐れ多くも国王の御身を狙う不届き者が居ないとは限りません。かといって平民の結婚式に完全武装も出来ません。

 どうかご子息の気持ちを無碍になさいませんよう」

 「つまり国王とバレねば良いのだな。よし、ゼファーよ、わしのスケジュールを調整せよ」


 いや、私はお止めしたつもりだったのだが。

 意気揚々と騎士を連れて戻って行く陛下。

 私はゼファーと呼ばれた者に合掌を送った。きっと彼はこれから大変だろうから。

 しかしアスターは両親が祝いに来てくれれば喜ぶかもしれない。


 「ランゼ。力を貸せ」

 「なんか良くわからんが面白そうだ。殿下の手作り料理で手を打とう」


 殿下は何処迄騎士達の胃袋を魅了したのだ?


 「私が決められる事ではないが、話を通す位は約束しよう」


 疑問は擡げるがアスターの喜ぶ顔を見たい。あの方の笑顔は胸を暖かくしてくれるものだから。

 こうして話を聞きつけた王妃殿下も加わって、城内は近年まれにみるお祭り騒ぎとなったのだった。

 

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逆ざまぁされた王子のその後 蒼穹月 @sorazuki

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