その頃テルロは 第五話

 バクシーさんの熱意がアスターの頑なな心を解した。

 熱心にニーナ嬢との婚姻を勧めた結果、先にニーナ嬢の方が乗り気になってくれた。

 アスターの本心を聞かせて欲しいと言うバクシー殿。

 私は戸惑いを見せるアスターに「貴方の心のままに伝えても良いのだ」とその背中を押した。

 そして伝わる想い。交わり広がる想いに、私は心から祝福をし密かに感動の涙を流した。

 もう、私の力は無くてもアスターは大丈夫だ。

 私の代わりにアスターを守ってくれる力強い仲間も出来た。

 私はアスターに監視の任から離れる旨を伝えた。調査に専念する為だ。

 伝えた時のアスターの寂しそうな顔は、私にやる気を起こさせてくれる。

 直ぐに解決をして、正式にアスター付きの任にする様直談判をしよう。

 もう既にアスターは私にとっても掛け替えのない弟同然の存在なのだから。


 「進展は」


 騎士団に戻った私はその日から目まぐるしく動いた。


 「良い知らせだ。黒幕の目星がついた。

 ただし悪い知らせとしてその黒幕は侯爵家の後ろ盾がある」

 「では調査は慎重に行わねばなりませんね」


 しかし戻った所で直ぐに解決をする訳ではない。

 調査は難航を極めていたが、思わぬ所から襤褸が出ていた。

 あの日アスターを追うのを邪魔したあの男だ。

 一度反省を促すために牢に入れたが、自身が言っていた通り大物貴族の家柄だった彼は直ぐに家に引き取られていった。

 そしてその手際の良さが我々に疑問を持たせたのだ。

 調べてみればかの家はアスターの教育係と繋がっていた。教育係自体は他の貴族家からの推薦だったが、その貴族に売り込んだのがその者の家だったのだ。

 アスターに酷い教育係を付け、傀儡にしようと画策していた様だが、失敗したと判断するや、口封じの為にアスターを狙っていたのだろう。

 そこからは裏を取る為に証拠を固めていった。

 しかし一度疑念を抱けば調べ方はある。聞き取り調査は勿論、潜入調査も張り込みもやれる事は全てやった。

 そうして揃った証拠を以って、今回の騒動は幕を閉じる事に成功を収めたのだった。

 勿論関わっていた貴族達にはアスターと同じ罰を仲良く受けて貰った。今頃アスターとは別の街で平民として大いに反省してくれている事だろう。

 他人にした事は自分に帰ってくる。良い教訓だ。

 騒動が解決しても私は未だに騎士団にいた。

 アスターの名誉回復の為に奔走しているのだ。そして最終的には私の願いを聞き届けて貰う為に実績も積んだ。

 今頃アスターは平和を取り戻した街でニーナと仲睦まじくしている事だろう。

 日々任務に追われている中、アスターの穏やかな日常を願った。 

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