その頃テルロは 第四話

 結果的にアスターは無事だった。

 私が助けたのではない。助けたのはニーナ嬢だ。


 遠目でアスターの姿を確認した時には、アスターは三人の男に囲まれ地に伏していた。

 頭に血が上った私は目の前で道を塞ぐ男を薙ぎ倒し、そのままの勢いで助けに向かおうとした。

 しかしそれよりもニーナ嬢が三人の男を昏倒させる方が速かった。

 余りの手腕に鳩が豆鉄砲食らった顔で呆気に取られてしまう。本当に強いな。もしかして街には我々騎士団は必要ないんじゃなかろうか。

 いやいや。強いのはニーナ嬢とその周りだけだ。実際には街娘達は総じて貴族令嬢よりは強い。という程度のか弱い者達が多かった。聞けばバクシー殿と奥方に鍛えられた成果らしいが、それはそれでお二人が何者か真剣に気になる。

 いけない。少し現実逃避をしてしまった。

 どうやら意識を飛ばしていた間にアスターとニーナ嬢は良い雰囲気を作り出した様子だ。これでは今更姿を見せられない。今出たらお邪魔虫だろう。馬に蹴られて死ぬのは避けたい。


 「おおー。やるなー殿下」


 気配を消して見守っていると、背後から騎士達がぞくぞくとやって来た。


 「他の者達は?」

 「余裕で全員牢屋の中」

 「ここ以外は、か」

 「悪い。一番大した事なさそうな連中だったから後回しにしていたが、まさか油断していた相手がやらかすとはな」

 「それに関しては私も同罪か。確かにド三流以下の小者だったが、甘く見過ぎていた」


 仲間は警邏の振りをしてニーナ嬢がのした悪漢達を回収していく。

 私達は騎士としての課題を残しつつ、取り敢えずアスターの無事を喜んだ。

 ここに集まったのは私と同じ志を持つ同志だ。

 悪漢達の調査をするにあたって出来た仲間に誇りと信頼を持つ。

 彼らならばアスターを任せられると。


 どうやらアスターは新しい感情が芽吹いた様だ。ならば私はその未来を守る為に力を尽くそう。

 しかし恋に後ろ向きになってしまったアスターの前途はまだまだ多難だ。

 きっかけを作れるのはニーナ嬢とその家族だけだろう。

 私はもう少し、その瞬間まではアスターを見守ろうと硬く誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る