その頃テルロは 第三話
調査の結果。やはり悪漢はアスターだけを狙っていた。
私が共にいる農場ではなく、一見して私が居ない時を狙っている辺りは大した輩ではない。気配を消しているとはいえ、背後から見ればわかるのに気付かないのだからな。
しかし捉えた彼らは総じて何かしらの報酬を得る予定だった事がわかった。
それはつまりある程度の金銭を用意出来る黒幕がいるという事だ。
しかしここで調査は難航を示した。
中々に尻尾を掴ませないのだ。
これは大物が絡んでいると身を引き締めた矢先、アスターが一人で街に出てしまう事件が起きた。
八百屋のハチが病に倒れたのだ。ハチの家は折り悪く皆出掛けており、一人で苦しんでいると幼馴染のニーナが心配をした。
それだけならばまあ、普通の事だろう。
問題はそのハチがバクシー家の財産目当てでニーナ嬢に言い寄っている事だ。
そんな男の所へ一人行かせられないと怒るアスターに対し、ニーナ嬢は意固地になって飛び出してしまった。
それをアスターが慌てて追い掛けたのだ。
泡を食ったのは私もだ。アスターを一人でなんて行かせられる訳が無い。悪漢達の件は未だ未解決なのだから。
こんな時に限って騎士と打ち合わせが入っていて出遅れたが、行き先はわかっている。幾度となくアスターと共にお使いに行っていたのだから。
直ぐに追い付きホッとしたのも束の間。周囲に良からぬ気配を感じ気を引き締めた。
「応援を呼んでいて正解だったな」
農場を出る前に打ち合わせをしていた相手に報告を頼んでいたのだ。問題は悪漢らしき気配が複数いて、それが分布している事だ。
今回は私も気配を消す余裕が無かった。悪漢達も私の存在に気付いている筈。何事も起こさなければ良いが……。
その心配は最悪の形で実現する。
「応援に来た」
それは一先ずアスターが無事にハチの家に着いた後の事だ。
家と家の隙間に身を潜めて伺っていると、背後から騎士仲間が声を掛けて来た。
「有難い。悪漢達は既に様々な裏通りに身を潜めている」
「わかった。殿下の監視は俺に任せてくれ。テルロ殿は悪漢達の退治へ」
男の言い様に私は眉を潜めた。
「?アスターなら私が見ている。貴殿が悪漢達の退治に加勢してくれるのではないのか?」
「俺は隠密に合わないんだ。秘密裏に退治するのに向かない」
「隠密に合わないなら余計にこの場は任せられない。それに悪漢達はどうどうと捉えてくれて構わない」
何かがおかしい。
言葉ではない。
そう。目の前の騎士の恰好をした男の顔が、あの日アスターを殴り飛ばした男の顔と同じ、下卑たものを彷彿とさせたのだ。
そうこうしている間に家からニーナ嬢が出て来た。
アスターは一緒ではないのか?訝しんでいると、少しの時間を置いてアスターも出て来た。やはり一人だ。
「兎も角貴殿は悪漢達の方へ行ってくれ。監視役の任は私が直接陛下から賜っている。投げ出す事はしない」
ニーナ嬢の行き先を聞いて回っているのだろう。アスターの姿を視線に捉えたまま言い切ると、男は「っち」っと舌打ちをして私の腕を掴んできた。
「離せ」
「まあまあそう言わず。陛下から直接なんて栄誉独り占めは良く無い。それは俺の様に地位のある貴族の出の者が賜るべきだろう」
男に行動を阻害され、このままではアスターを見失ってしまう。
下卑た顔を隠さなくなった醜い男に怒気を飛ばした。
「っな!?なんて顔をしている!?俺はお前より上の貴族位の出だぞ!?」
「そうか。見ない顔だがどこの家の者だ。しっかりと陛下にお伝えしておこう」
アスターを危険に晒した愚か者として。
唾を飛ばし意味を理解する気も起きない汚らしい言葉を放つ男の溝尾に重い一撃をくれてやる。その一撃で白目を剥いて気絶する男。そこに別の気配が来て倒れる男を寸前で捉えた。
「悪い。遅かったか」
「ヨウム。いや、良い。此処を頼む」
「応。この馬鹿は責任もって牢にぶち込んどく」
本当の応援に気の知れた顔見知りの騎士が来てくれた。
やはりこの男は応援に来た者ではなかったか。
私は最優先事項のアスターを追い掛ける為に話しもそこそこに駆け出した。
くそっ、今の無駄な時間にアスターを見失ってしまった。
周囲に視線を走らせると、私の焦りに気付いた街の者達が走り抜ける私にアスターの行き先を告げてくれる。有難い事だ。平民はこんなにも暖かく、頼りになる。
街の者達の導きのお陰でアスターに辿り着けはしたが、時は既に遅かった。
人気の無い場所でアスターが襲われた。
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