後日談

 結婚式を終えた次の日からテルロが帰って来た。

 如何やら今迄帰って来なかったのは、正式に俺の専属騎士になる為だったらしい。これからは常に俺の側に居られると優しい笑みをくれた。

 テルロは俺の手が出せなくなった城内で、そらはもう奮迅していたのだと今迄監視役を務めていた騎士達が教えてくれた。


 「いや~私もこの任務続けたかったですがね。テルロさんの思いには負けました。本気で貴方を家族だと見ているのですから」

 「全く。あれ程熱心に訴えられたら答えない訳にはいかないってもんですよ」

 「でも仕事を抜きにすればここに来ちゃダメな訳じゃないですよね。これからもちょくちょくご飯食べに来ます」


 最後の挨拶は世話になった騎士達総出のものだ。

 そういえば食の改善の件、父上に進言する機会が出来たな。早い内に言っておこう。でないと騎士達が可哀想だ。


 「人の家のご飯をたかるとは騎士として情け無い」

 「そうは言うがテルロよ。お前ばっかり殿下の手作りご飯食べようなんて狡いじゃないか」

 「「「そうだそうだ!」」」


 父上に話しを通す算段をしている横で、何やらテルロと他の騎士達が揉めていた。

 話の内容までは聞こえて来なかったが、テルロが争う姿は新鮮だ。色々な姿を見せてくれる様になったテルロを嬉しく思い、ホッコリと相合が崩れる。


 「アスター、アゼルさんとシェーナさんが待っているぞ」


 温かい気持ちでテルロと騎士のやり取りを見ていたら、玄関から義父上が呼んだ。

 アゼルとは父上の略称で、シェーナが母上の略称だ。まさかお忍びの二人を陛下と呼ぶ訳にもいかないし、フルネームは国民の殆どが知っている。身バレ防止の為にも略称を使ってる。

 昨日の結婚式で、義父上達が見事に父上と母上を拉致……保護、をしてくれていた。昨日は初夜だった為お会い出来なかったから、改めて今日来てくださる様に話しを付けてくれたんだ。説得役を担った義母上の話術は凄かったらしい。

 全く義父上と義母上には頭が上がらないな。


 「それじゃあ俺はお会いしてくるな」

 「外は我々がいるから安心してゆっくり話してくるといいですよ」


 ……敬語……。

 送り出してくれるテルロだが、その言葉使いが気になった。行こうとした足を止めてじっとテルロを見上げる。


 「?どうされましたか?」


 テルロは俺が眉間に皺を寄せたものだから怪訝そうに尋ねてきた。


 「テルロは敬語禁止」

 「は?」

 「俺はもう敬われる立場ではないし、テルロはもう俺にとっては兄代わりなんだ。

 兄上に敬語使われるものほど居心地悪いものはない。

 だから敬語は禁止だからな」


 鳩が豆鉄砲を食ったような目をしたテルロに、ズビシと指を突き付けてやった。

 珍しく狼狽えを見せるテルロにニンマリと笑ってやり、言い逃げだと走って屋内へ入って行く。外では騎士達が騒がしくなったが賑やかで良い。


 「父上、母上、お久し振りでございます」


 外の喧騒をBGMに椅子に腰掛ける二人にお辞儀のみの挨拶をした。


 「……アスター。

 ……健勝そうだな」

 「ええ、お陰様で」


 血の繋がった親子の筈なのに、俺と父上の間には遠慮がある。

 父上は潤む目でしっかりと俺を見るが、それ以上をしてくる気配はない。

 これがバクシーさんなら「ガハガハ」と大笑いしながらハグか背中を叩くかしているところだ。その暖かさを知った今、父上との間の遠慮が悲しい。

 母上に至っては声すら掛けてこない。泣いていて掛けられないという事も有るだろうが。


 「なぁ~に畏まってんでい!父と子の再会だろが、バーンと背中の一つでも叩いてやれってんだ!ガッハッハ!」


 そんな悲しい空気も、義父上の手に掛かればあっという間に霧散した。

 義父上は父上の背中をバンと叩いて物理的に俺の方へ向かわせたのだ。っていうか陛下って知ってる筈なのに遠慮がないな。流石義父上だ。


 「う……」


 無理矢理俺の目の前に立たされた父上は、視線を彷徨わせている。どうしたらいいのか答えがわからないのだろう。

 俺は父上の不器用さに内心で苦笑した。

 仕方なく俺の方から距離を縮める。

 父上は動けずじっと俺の動向を伺っている。


 「父上。来てくれてありがとう」


 俺は父上の動揺ごとハグをした。

 初めて感じる父上の体温の暖かさに涙が出そうだ。


 「愛息子の晴れ姿だ。直接祝いに来るに決まっているっ」


 父上は尚もキョロキョロしていたが、ついには意を決してハグを返してくれた。

 言葉尻が震えていた。肩も震えている。

 それでも力強く返してくれる思いが嬉しい。


 「ず……狡いですわっ、わたくしにとっても愛息子ですのよっ!」


 淑女の鏡と謳われた母上。それなのに取り乱し、駄々を捏ねるような勢いで俺を奪い、ハグをしてくれた。

 父上が泣き笑いで苦笑をし、母上ごと俺を包み込んだ。


 その日、両家が揃った。

 そして今までの隙間を埋めるかの様に、話しは尽きる事なく、夜遅くまで続いたのだった。

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