第4話
それから何度も、私は万年くんと会って、色んな話をした。
主に、話しているのは私の方だったけれども。
いつも、会うのは、ポツリポツリと花の咲いている万年桜の木の下で、特にどこかへ出掛けることも無かったけれど、私はその事には何の疑問も持たなかった。
私はずっと変わらずに、万年桜が好きだったし、万年桜の木の下はとっても落ち着く場所だったし。
万年くんのことも、どんどん好きになっていったし、彼の存在は、先輩とのことでポッカリ空いてしまった心の穴を、徐々に埋めてくれていた。
特にどこかに遊びに行かなくても、桜の木の下で彼とお話しているだけで、私の心は安らいだし、とても満たされた気分だった。
ただ。
不満が1つと、気がかりなことが1つ。
何が不満かといえば、万年くんが、名前以外のことをほとんど何も教えてくれないこと。
歳は?って聞くと
「春香ちゃんよりは上。」
誕生日は?って聞くと
「春・・・くらいかな。」
どこの学校に行っているの?の問いには
「あっちの方。」
どこに済んでるの?って聞けば
「ここらへん。」
彼曰く、
「ボクは、自分のこと話すの、苦手なんだ。ボクの話なんかするより、春香ちゃんの話を聞いている方が、ずっと楽しいし、コイツも喜ぶよ。」
だそうだ。
「私だって、万年くんのこと知りたいのにな。」
そう言うと、彼はすごく困った顔をするから。
だから、私はこの事に関しては、諦めることにした。
言いたくないのは、何か事情があるからかもしれない。
それに、彼は困った顔をしているよりも、笑っている顔の方が絶対にいい。そう思うから。
私の話で笑ってくれるなら、それでいいって、思った。
問題は、気がかりなことの方だった。
春に出会って、夏を過ごして。
秋頃になってくると、彼は時々、寂しそうな顔を見せるようになってきた。
秋という季節がそうさせているのかな、なんて思ったりもしたけど、秋が過ぎて冬になる頃には、彼は目に見えて元気が無くなってきていた。
そんな風になっても、彼は何も言ってくれず、私の心配は募るばかりだった。
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