第八話 裸の謝恩会


 警察長官から預かっていた発信機をオンにすると、信号はすぐに、中継ステーションを経てアイランド警察へと届いたらしい。

 二十分もしないで、完全武装の機動部隊が廃ホテル二番館へと乗り込んで来て、拘束されている犯罪グループ、バラリー団を護送ビークルへと詰め込んだ。

 政府関係者が寄越した搬送ビークルは、証拠として別に押収される。

「ご苦労様でした! お二人のおかげで事件は無事、秘密裏に解決へと導かれました!」

 真面目な男性の部隊長は、全裸のマコトとユキに、感謝と敬意の握手を求めてくる。

「ど、どうも」

 拒否するのもどうかと想い、二人は恥ずかしさを堪えて、自分たちよりも背が高い男性の隊長と握手をかわす。

「あっあのっ、自分たちもっ、あ握手っ、宜しいですかっ!?」

 犯人たちを護送ビークルに詰め込んだ若い男性隊員たちも、二人が有名で優秀な特殊捜査官と知って、敬意の握手を求めてくる。

「え、えぇ」

 この惑星の人たちは、アイランドごとの規則に対して、有り得ないくらい厳格らしい。

 麗しき裸身を隠さない、二人の美少女ケモ耳捜査官に対し、邪な視線も意思も、微塵も感じさせない。

 あえて言えば、マコトとユキが勘ぐってしまうくらいか。

「じ自分もっ、ぜひっ!」

「じっ自分もっ!」

 二人は裸を隠す事も出来ず、しばし機動隊員の男性たちとのヌード握手を、交わし続けた。


 それから翌日、ホテルで待機している二人の元へ、ビンプルンの警察長官が直々に、捜査報告へと訪れた。

「失礼します」

 もちろん、ペンギン・アイランドの規則に則り、二人は全裸のまま、着衣男性の警察長官と対面をする。

 同行した全裸のリス耳リス尻尾な女性秘書官が、前回と同じく、給仕をしてくれた。

「お二人のおかげで、バラリー団は壊滅、連中からキックバックを受け取っていた関係者も、全員、拘束いたしました。事情聴取は始まったばかりですが…我が惑星ビンプルンを蝕んでいた犯罪は、見事に撲滅せしめました。これも、お二人のご尽力のおかげです」

 言いながら、立ち上がって深々と頭を下げる、初老の男性長官。

「いいえ、皆様の協力体制があってこそでした」

 本心でそう告げるマコトたちは、あらためて長官と握手をした。


「これで、恥ずかしい任務から解放されるね」

 お昼が過ぎて、やがて惑星ビンプルンで過ごす最後の夜が訪れる。

「私は、なんだか名残惜しく感じられますわ」

 裸のリゾート・アイランドを裸で歩く事に慣れたらしいユキが、そう言って愛らしいお姫様フェイスを輝かせつつ、微笑む。

「ボクはまだ、恥ずかしさの方が勝っているよ」

 明日の昼には、このホテルをチェックアウトしてエアポートへと向かい、地球本星への帰路に就く。

 つまりほぼあと一日、この惑星に滞在する。

 そしてその事が、二人に別なる任務を招いていた。

「感謝の宴…ですか…?」

 夕方になって、招待状を届けに、女性の広報官が全裸で面会にやって来た。

「はい。惑星ビンプルンの行政を代表し、お二人に感謝の気持ちをお伝えしたいと、行政長官が申しております」

 行政長官と言えば、つまり惑星ビンプルンの代表。

 いわゆる大統領にも等しい。

 そんな大人物が催す感謝の宴といえば、どう考えても、個人同士の面会などという小さな規模ではないだろう。

「へ、返事はその、本部に報告してからで 宜しいでしょうか?」

 惑星間での光速通信で、クロスマン主任から「良いから戻ってきなさい」とのお言葉を戴こうと期待したら。

『そうか。それはぜひ参加させていただきなさい。帰星は、二日ほど遅れて構わないよ』

 と、心からの笑顔でお墨付きを戴いてしまった。


 その日の夜、二人はペンギン・アイランドの規則に則り、全裸にハイヒールとアクセサリーという恥ずかしい姿で、用意された会場へと、これまた用意されたリムジンで向かう。

 アイランドの、最も豪華で大きなホテルのパーティー会場を借り切って、謝恩会は催された。

「着いちゃったね」

「こうなってしまっては、覚悟いたしますわ」

 若い執事さん風な美青年が扉を開けて、マコトたちがリムジンから下りると、惑星ビンプルンの全メディアが、出迎えのフラッシュを光らせ続ける。

 全裸の姿を大勢に撮影されると、恥ずかしくて車に戻りたくなったり。

「うわ…」

「マコト、堂々と笑顔 ですわ」

 ユキは恥ずかしながらも臆する様子を見せず、お姫様のような愛らしい笑みを輝かせて、メディアのカメラに応じる。

「こうなったら、ボクも 覚悟」

 深く一呼吸をして、中性的な王子様フェイスを、端正に微笑ませるマコト。

 よく見ると、メディアの女性陣は規則に則り、全裸である。

 無数のフラッシュで歓迎されるなんて初めての体験に、なんだか良い意味での有名人になったかのようで、二人の意識も多少、高揚感で麻痺をしてきた。

(こ、こんな姿で撮影されてるのに…恥ずかしいのに…)

 心の奥から、喜びに似た感覚が、なぜか目覚めてくる。

 それはマコトよりも、ユキの方が強そうだった。

 レッドカーペットを歩いて会場に通されると、会場内にはやはり、大勢の政府関係者がいる。

 豪華な内装と共に、二人を盛大な拍手で迎えてくれた。

「おお、噂のホワイト・フロール殿ですな」

「なんと、若く美しい方々なのだろう」

 初老の男性高官たちは、こぞって二人に称賛を送る。

 若い女性の給仕たちも会場にいるけれど、やはり全裸で最低限のカチューシャとエプロンのみを纏っていた。

 広い会場を、舞台に向かって歩く裸の二人は、多くの男性高官たちからの、熱い注目を浴びせられる。

 舞台の上に招待をされると、高齢で恰幅の良い上品な男性が歩み寄って来て、二人に握手を求めた。

「惑星ビンプルンの行政長官、クカリャク・アルハ・ハイ・リーン・ディアオです。この度のお二人のご活躍、どれ程の感謝の言葉でも、言い表せません」

 なんとなく祖父を思い出す年齢の男性を前にして、フラッシュ群で高揚していた気分が、なぜか恥ずかしさで委縮をしてしまう。

「ど、どうも」

「お目通りを戴き、感謝の言葉もありません」

 言葉が籠り気味なマコトに比して、同じ恥ずかしさも更なる高揚へと繋がったらしいユキは、より優雅に挨拶をこなす。

 再び盛大な感謝の拍手を送られて、そのまま会場での立食パーティーが催され、二人は裸のまま、多くの男性高官たちと歓談をする。

 数時間にわたる宴の間、メディアから次々と写真撮影を要請される二人。

 もちろん、今回の事件は極秘裏に解決されたし、ビンプルンとしても公表できる事件ではない。

 しかし、銀河に名高いホワイト・フロールが訪れてくれたという事実は、惑星の広報として、この上ない好材料である。

クロスマン主任からも、地球連邦の広報としての任務は、常に命じられている。

「そ、それでは」

 二人は全裸のまま、何人もの着衣した男性高官たちと、記念写真を撮影。

 後々の惑星広報では、もちろん肩より上のバストアップ写真が公開された。

 肝心な部分は隠されているものの、しかし二人が全裸で男性高官たちと歓談をしている写真は、特に銀河の男性たちの想像を掻き立てさせる事となった。


 翌日の昼。

 遅めに起きた二人は惑星ビンプルンを出発し、ワープ航法で地球本星へと帰還。

 捜査本部へと報告書を提出しに上がったマコトとユキは、予想外の情報を得た。

「ご苦労様だったね。キミたち二人のおかげで、地球連邦の好感度もウナギのぼりだし、惑星ビンプルンの集客も増えに増えて、大喜びとの話だ」

「あ、ありがとうございます」

 クロスマン主任からのお褒めの言葉を戴き嬉しい反面、自分たちに何か失態は無かったかと、緊張で微細に震えてもいる。

「それと、キミたちに確認を取っておくべき情報が あってね」

「私たちに ですか?」

「これを見給え」

 言われて、壁一面の室内モニターに映し出されたのは、犯罪者の男たちを相手に全裸で格闘をする、二人の全裸女性。

「あ…」

「これは…」

 映像は、湖で全裸水浴びをしていたらドクターチューブに何かをされている望遠の映像から、全裸で犯罪者の男たちを叩きのめしてゆく迫力の映像まで、トータルで五分ほど。

 元々のデータは壊れていて、女性たちの顔や音声は不明瞭すぎて、個人の特定は完全に不可能。

 しかしパンチや鞭のたびに大きく弾む巨乳や、回し蹴りやバックステップで揺れる裸尻。

 更にジャンプキックや蹴り上げや、二人揃っての踵落としなど、打撃を受ける犯罪者目線での映像が、超高画質で記録されていた。

 恥ずかし過ぎる映像に、二人のケモ耳やケモ尻尾がピンと立ったままブルブルと震え、美しい愛顔が上気に染まる。

「この映像は…つい先日、銀河の裏ネットで流出を確認された、出どころ不明な映像だ。キミたちに 心当たりは…?」

 問われて焦る。

「ユ、ユキ これって…」

 機能的に有り得ない、犯人たちの義眼による、記録映像の流出。

 メカヲタクのユキは、すぐに推察が出来てしまった。

「あ、あの義眼の出力ではホテルの外までも届かない電波でしたけれど…犯人たちを無力化するスタンの電撃で、データの破壊と同時に、強い出力で電波が放出をされて、私たちがビンプルンの警察長官から預かっていた発信機を中継器として、更に中継ステーションから広域へと拡散されてしまいました…という、一種の機能障害ですわ…!」

 恥ずかしい失態なのに、メカ推論をする時のユキは、なんだか楽しそうでもあった。

「つまり、ボクたち自身の 所為?」

「ですわ」

 端的な会話だけど、クロスマン主任は、だいたいの事情を理解できたらしい。

「なるほど。ではこの件は 不問としようか」

 つまりこのまま、謎の全裸女性格闘映像は、銀河の裏ネットに放置され続ける。という事だ。

「それは、あの…」

「この恥ずかしい映像は、そのまま。という事 で、しょうか…?」

マコトたちの抗議に、クロスマン主任は静かに問う。

「私たち地球連邦政府が、この映像を黙殺する事は簡単だ。しかしそうすれば、この映像の女性たちがキミたちであると、銀河中に広報するのも同じという事になるだろう。このまま放置が最適な対応だと、私は思うが」

「…ですね」

「きゅ~ん…」

 二人のケモ耳が、恥ずかしさと諦めで、ペタんと垂れる。

 マコトもユキも、現状放置で納得するしかなかった。

 こうして、事件を解決した二人は、正体不明の全裸な超高画質映像が銀河に流出されるという、できれば消したいし忘れたい痕跡を残す事になった。


                        ~第八話 終わり~

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