第七話 ヌードでファイト!



「あなたたちが、銀河広域指名手配の犯罪グループ、バラリー団ですね」

 二人の正面に位置する、高さ三メートル程の廃材に立つスキンヘッド男を見据えながら、マコトは裸のまま堂々と指摘をした。

 全裸な少女捜査官たちの鋭い視線を、男たちは邪にニヤついて受ける。

「そのとぉりっっ! オレ様たちを追っているのが、お前たちデーモン・ビッチーズだと解った時はぁっ、嬉しかったぜえええっ! ヒィッヒッヒイ~ッ!」

 あきらかに、二人の全裸を観察して喜んで、いかにも自分たちの思惑通りだと言わんばかりの、下衆な笑い顔だ。

 取り囲む男たちも、色々な意味で銀河に名高い美少女捜査官の魅惑的な白い肢体に、イヤらしい視線を遠慮なく注ぎ、楽しんでいる。

 常夏のリゾートアイランドへ逃げ込んだためか、男たちはみな、上半身が裸。

 それなりに筋肉質で傷も多く、女などには負ける理由も無しと、自信タップリに欲望を剥き出しにして、筋肉を見せ付けている。

 男たちの下品な視線を跳ね返すように、一歩前に出て指摘をした。

「失礼ですわ! 私たちは」

「ホワイト・フロールさ!」

 名前の間違いを訂正する二人を、リーダーは余裕を装うハッタリだと感じたらしい。

「ああそうかい。ならそのホワイト・なんたら様の正しいコードネームと恥ずかしい姿をっ、銀河全域にっ、生中継してやるぜえぇっ!」

 音声認識で、男の右目が、ギラりと赤く輝く。

「義眼…っ!」

 マコトはイヤな予感を覚え、思わず裸身を一歩、退かせてしまう。

「あの義眼でボクたちの裸が撮影されて、銀河中に映像が流されている…!」

 そう思うと、恥ずかしさが強烈に沸き起こって、つい身体を隠しそうになる。

 しかし、大勢の男たちの前でそんな身動きできない姿勢になってしまったら、もう羞恥心に抗えなくなって、まさに最悪の危機を迎えてしまうだろう。

 足が下がったマコトに向けて、リーダーは更なる追い打ちをかけてくる。

「ぉおっと! オレと同じ義眼をしているヤツは、周りにもいるぜえぇっ!」

「!」

 周囲を見回すと、取り囲む男たちの中に五人ほど、左右どちらかの義眼が赤くギラついている者がいる。

「ヘッヘッヘ!」

「二人ともぉ~、い~い身体ぁ、してやがるよなあぁあ!」

 しかも義眼の男たちは、一方に固まっている事はない。

 二人の裸は、周囲のどの方向からも、魅惑的な肌を隠せない状況だった。

「く…っ!」

 マコトのネコ耳が、ネコ尻尾が、羞恥と使命感の狭間で揺れて、ピクピクと震える。

 中性的な美しい王子様フェイスが、羞恥心で被虐的な魅力に染まってゆく。

 無意識に脇と膝が、閉じかけてしまっていた。

「銀河中の男たちがぁ、お前たちの裸を全方位から眺めてぇ、頭に焼き付けてる頃だなああっ! ゲェッヘッヘッヘェッ!」

 ノックアウト強盗で覗き魔なうえ、更に盗撮魔となった男たち。

 取り囲む犯罪者たちは、このまま二人を取り押さえんと、ジリジリ包囲を狭めてくる。

 顔やバストやヒップへと無縁慮に注がれる、犯罪男たちのイヤらしい視線に、マコトの頬も更に上気をしてしまう。

 しかしそんな中でも、全裸のネコ耳捜査官は、パートナーの様子を注視していた。

「ユキ、どう?」

 周囲を警戒しつつ視線を向けると、ウサ耳の全裸少女はお姫様のように愛らしいフェイスで堂々と、リーダの男を見据えていた。

「ええ、マコト。あのリーダーは私たちを、虚言で追い込もうとしてますわ!」

 自信たっぷりに告げるユキ。

「なっ、なんだとおおおっ!?」

 思わぬ指摘に、男たち全体へと動揺が走った。

「どっ、どこが虚言だぁっ? つ、強がったところでっ、お前たちの全裸は銀河中にっ、垂れ流されてるんだぜぇえっ!」

 あきらかに虚言だとバレて焦っているリーダーに、ウサ耳捜査官は言い放つ。

「あなたたちの義眼は、惑星ゼンブレリウス星の非合法企業チャンザブが制作および製造をして、銀河の裏ルートで販売されている、犯罪者専用のような義眼ZPX‐二六八型ですわ」

「「「ギクッ!」」」

 メカに明るいユキは、義眼のカメラの輝きで、製品そのものを言い当てている。

「その義眼の出力では、銀河に電波発信どころか、このホテルの外ですら、電波を拾えないくらいの低出力。外付けメモリーへのアクセスとしては、宇宙船のブリッジなど、狭い空間での使用を想定して作られた製品ですわ。内臓メモリーも、せいぜい五分程度の映像記録を随時更新するのが、性能的な限界ですわ」

 パートナーの言葉を聞いて、マコトの心に余裕が出来る。

「そうなんだ」

「そして、その義眼の絶縁性能では、人体にショックを与えるスタン攻撃を浴びせれば、その強い電圧でシステムそのものをショートさせる事が可能ですわ。つまり、内部に記録している映像も、破壊可能です」

 義眼のセンサー光から、型番や耐久性能まで看破するユキだ。

「なっ、なんてぇメカヲタクっ!」

 全裸さらふわヘアな美少女捜査官のメカ知識に、男たちは言葉を失う。

「それじゃあ、ボクたちのする事は 当初の予定と同じままだね」

「ええ」

 マコトは一歩踏み出しながら、左右上腕から手首までのアクセサリー類を、掌まで滑らせる。

 腕の各種アクセサリーが掌甲の上で重なると、変形合体をしながらにシステムが起動。

 両の掌には、犯罪者を鎮圧する為のスタングローブが完成していた。

 ユキも、上腕のアクセサリーを素早く引くと、細くて長い金属の鞭、スタンウィップへとシステムチェンジ。

 マコトの高貴な中性美顔が、ユキの穏やかなお姫様媚顔が、犯罪者たちを打ち倒す特殊捜査官の使命感で、輝いていた。

 黒いネコ耳やネコ尻尾が、白いウサ耳やウサ尻尾が、自信に満ちてピンと立つ。

 全裸の堂々たる美少女捜査官たちに、犯罪者の男たち十五人が、気圧されていた。

「ク、クソッ! お前らっ、相手は裸の女二人だあっ! 叩いて捕らえて、俺たちの恐ろしさを教えてやるぞぉっ!」

「「「ぅおおおおっ!」」」

 上半身裸の犯罪者たちが、全裸ブーツの美少女二人へと、周囲から一斉に襲い掛かってきた。

「ユキ、行くよっ!」

「ええ!」

 マコトたちは素早く犯罪者たちを見極めると、それぞれ最も遠い男たちへと、急接近をする。

「なにっ!?」

「ャアアっ!」

 男の顔面に向けて、マコトの素早いストレートが炸裂。

 鍛えた捜査官とはいえ、その拳だけで体格の大きな男をノックアウトなんて出来ない。

 しかしマコトのグローブはスタン属性の電撃仕様であり、叩いた瞬間には犯罪者の顔面から全身へと、強烈な電撃をお見舞いしていた。

「ギャアアッ–あ…」

 頭からつま先まで通電された犯罪者は、一瞬だけビクビクっと激しい痙攣を見せると、グタリとその場で倒れてしまった。

「っハアっ!」

 向かってくる男たちに向けて、ユキがスタンウィップを振るう。

 目にも留まらぬ超高速の金属鞭が、男の身体に触れた瞬間、強烈な電撃が全身をくまなく通り抜けて、筋肉を麻痺させる。

「ッアアァ…ぅぐ…」

 やはり一瞬だけ強い痙攣をすると、男はその場で崩れ落ちる。

 マコトよりも身体能力で大きく引けを取るユキは、比較的容易に目的へと命中させられる鞭を使用して、犯罪者たちを無力化させていった。

「ヤっ、ハァアっ!」

 マコトの拳や手刀が振るわれるたびに、大きなバストがタプんと揺れて、蹴り上げる度に裸腰が開脚。

「ィヤっ、ハっ!」

 ユキが鞭を振るうごとに、全身の動きで巨乳が弾み、丸い裸尻が艶めかしく柔ラインを魅せる。

「こ、このアマァっ!」

 素手では勝てないと解った男たちが、廃材の棒を手に、襲い掛かってきた。

「選択ミスだね」

 金属の棒など、電撃攻撃にとっては、ただの通電アイテムだ。

 殴るまでもなく、棒を受け止めて電撃を流したら、男はそれだけでバタリと倒れた。

「くっ、くそぅっ!」

 襲い来る犯罪者たちを、二人の打撃は正確に、一人また一人と捌いて、沈黙させてゆく。

 ユキの巨バストが大きく弾み、マコトの巨ヒップが柔らかく揺れて、薄暗い戦場に、白い肌と戦いの汗をチラチラと魅せ付け続けた。

「ヤァっ!」

「ッギャアアッ–ぁぐ…ッ!」

 次々と倒されて行く部下たちは、ユキのアクセサリーに偽装した拘束具によって、逮捕されてゆく。

 ウサ耳捜査官の指摘通り、電撃を浴びせられた男たちの義眼はその電圧に耐えられず、内部がショートして光を失い、完全にシステムが破壊されていた。

 十四人の犯罪者たちを打ち倒し、全員拘束。

 戦いを制したマコトの王子様な美顔が、ユキのお姫様な愛顔が、フ…と一息に輝く。

「それじゃあ、残ったのは リーダーだけだね」

「ですわ」

 全裸の美少女捜査官たちに歩み寄られ、男は壁を背に逃げ場を失い、追い詰められる。

「お、お前らっ…素っ裸で暴れまわってっ…映像だって撮られてるってのにっ–は恥ずかしくっ、ないのかあっ!?」

「まだそのような虚れ言を」

 犯罪者が無力な恫喝に縋って倫理観を説いてくる有様に、ユキは呆れ、マコトは美しい憂いの表情。

「もちろん 恥ずかしいですよ。だから」

 二人とも構えて。

「「こうする!」のですわ!」

 ハモって、揃ってリーダーの脳天に、強烈な踵落としを喰らわせた。

「ングフッ–んぐぅ…」

 二人分の電撃と踵落としを受けて、リーダーは気絶。

 義眼がビカビカと狂った点滅をして、煙を上げて沈黙。

 捕獲アクセサリーで拘束をすると、覗き魔であり盗撮魔でありノックアウト犯罪グループでもあるバラリー団は、全員逮捕された。

「ふぅ…それにしたもさ」

 マコトは、少し反省をする。

「映像も破壊できるからって、踵落としは サービスし過ぎかな」

「ですけれど、悔しかったですし」

「ま そうだね」

 二人は全裸のまま、犯罪者逮捕に笑顔を輝かせていた。


                       ~第七話 終わり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る