第六話 犯罪グループと対峙!


「覗きの犯人たちを見つけた…って事だね」

 ユキのリングには、二番館の中に人間の温度を、複数人と感知している。

「どうやら、高層階の窓で 最初の反応を確認できたようですわ」

 つまり、二番館から見える湖で全裸の若い女性が二人、ドクターチューブで恥ずかしい姿を晒しているのを、隠れている犯人たちが見つけて覗いていた。

 という事だ。

 裸の女子たちがいなくなった今は、もちろん窓辺の反応は無し。

 リングは、窓に感知した反応を追跡走査して、高層階に隠れている複数の反応を見つけているのだ。

「バラリー団が全員 ここにいるのか、一応 確認しておこうか」

「ええ」


 二人は木々に隠れて移動をして、湖から最も遠い一番館も、センサーで捜査。

「こちらには、野鳥の体温すらありませんわ」

「つまり、みんな二番館に隠れてるわけだね」

 むしろバラバラに隠れる必要はないけれど、確信を得てから行動した方が安全である。

「二番館に戻って、出来る限りに中の様子を探ってみよう」


 二人は再び、木々の間に身を潜めつつ、二番館へと戻ってきた。

 廃ホテルの窓に人がいない事を確かめて、素早く外壁へと取り付く。

「どう?」

「配線は廃棄されたままですけれど、下水管に使用された痕跡を感知しましたわ。つい今朝のようですわ」

「…! ユキ」

 遠くから、林の中に適したタイヤ式なビークル音が聞こえて、マコトはユキに囁き、二人で身を隠す。

 隠れた外壁に背中を合わせると、昼の太陽によって艶めく肢体は、ほぼ真上からのグラデーションで彩られる。

 大きな乳房が地面にまで影を落として、先端の媚突も凸影を見せてた。

 ビークルは、やや大きなコンテナタイプで、音や挙動から、中は空っぽだと解る。

 車体の大きさから見るに、後部の貨物スペースには、二十人くらいは詰め込めそうだ。

 運送業者の全裸女性運転手が一人だけのようで、周囲を見回して「ここよね」と独り言を残し、徒歩で去って行った。

「…危なかったですわ」

「うん。あれはきっと、キックバックを受け取っている人物が手配した、逃走用のビークルだね」

 時を待たず、あのビークル目当てに、犯人たちが降りてくるのだろう。

 その後の逃走向経路も用意されているとみて、間違いなさそうだ。

 まさに、逃走直前なギリギリのタイミングである。

 二人は、廃ホテルの二番館に確信を得た。

「隠れているのは、この中で間違いないって根拠だね」

 見上げると、廃ホテルは五階建ての幅広い建築物だ。

 自然の景観に溶け込めるよう、あえて超高層にはしなかったのだろう。

 荷物や食材などの搬入に使用される扉の下を調べたら、乾ききった海洋成分が検出されて、逃走班たちはここから中に入ったと解る。

 秘書官から貰っていたデータによると、一階はロビーや食堂や浴槽などの施設で、二階から四階は各客室。

 五階は大きなイベントフロアで、バーティールームとしても使用可能な空間らしく、やたらと広いスペースだ。

「こういうアイランドでパーティーを開く大富豪とか、いるのかな」

「それは 居りますでしょう」

 優しく優雅なお姫様フェイスで言われると、王族にとって当たり前な嗜好みたいに感じられて、中性的で端正な王子様フェイスが美しく曇ったり。

「覗き魔たち、五階の窓で 反応があったんだっけ」

「ですわ」

「つまり、みんな五階に集まっている可能性が高い ワケか…」

 相手は十五人の、ノックアウト強盗団である。

「武器はどうかな? 僕の考えでは、宇宙船から脱出したとはいえ、銃とか持って、このアイランドに入れるとは 思えないけれど」

「私も そう思いますわ。たとえ小型のハンドガンとはいえ、そのように高エネルギーの機器を持ち込めば、アイランド全体を監視するセンサーが すぐに反応をするでしょうから」

 ユキが違法ギリギリ改造したアクセサリーも、偽装短波発信プログラムとユキの高度なメカ知識によって、チェックをパスしたのだ。

 警察長官から渡された発振器も、アイランドの保安規格に則った安全仕様である。

 ユキが自慢げに、同時に不服そうに、アクセサリーなどを指して言う。

「指輪やブーツ等の電気ショックを最大にする事も、危険でしたわ。入星パスのギリギリで出力を押さえるのに、経験とカンが必要でしたもの」

「ユキにしか出来ない芸当 だもんね」

 パートナーの褒め言葉に、ユキは嬉しそうにウサ耳をビクんと跳ねさせた。

 マコトは、パートナーが改造した指輪やアクセサリーをあらためて見つめながら、ユキのリング捜査のデータを考察。

「で、つまり この中の十五人の犯罪者たちを、このスタン系アクセサリーを使って打撃で制圧をする…っていう事だよね」

「五階フロアの どこに隠れているのかは分かりませんが…でもうまくいけば、逃走犯の全員を誘き出す事も、叶うかもしれませんわ」

 湖を覗き見していた犯人たちである。

 全裸の自分たちという状況だし、ユキが何を言いたいのか、だいたいわかった。

「恥ずかしいし頭にくるけど…たしかに最も有効では ありそうだよね」

 つまり、作戦としては。

 ①密かにホテル内を捜査しつつ五階を目指し、バラリー団を見つける。

 ②見つけられなかった場合、広いスペースに裸で躍り出て隙だらけに見せて、隠れているバラリー団を誘き出す。

「…そうなりますわね」

 ユキも提案していた事だけど、作戦としてあらためて確認をすると、やはり恥ずかしさが出てくるようだ。

 愛らしく高貴な媚顔を羞恥させて、白いウサ耳がペタんとしおれる。

「まあ、そうなったらさ。もう相手も自首なんてしないだろうから、実力行使だよ」

 裸を見られて頭に来るから遠慮なく叩く。

 投降しない犯罪者に対しての闘志は、ユキよりも強いマコトである。

 漆黒のネコ耳をピンと立てて、中性的な美顔を引き締めていた。

「…投降された方が、犯人たちの身の為ですわ」

「それじゃ 行こうか」

 二人は頷き合うと、廃ホテルの裏口から素早く潜入をした。


 通電されていない以上、ホテルの防犯カメラやセンサーは、動いていないだろう。

 墜落した宇宙船から、建築物用にも使用可能な重たいバッテリーを持ち出しているとも、考えにくい。

 それでも、訓練と実戦によって身に着いた、身体を小さく屈めて物陰に潜み、素早く目的地へと走る行動をとる、裸の二人。

 身を屈めて静かに前を行くマコトの巨乳が、下向きで質量を増して、移動に合わせてタプタプと揺れる。

 後ろを警戒するユキも、身を沈めて素早く移動をすると、大きなお尻が左右に振られ、ぷるぷると魅惑的に震えて魅せた。

「一階フロアには、反応はありませんわ」

「OK」

 ロビーも含めて、誰かが隠れている事はないようだ。

 エレベーターも活動停止をしているので、二人は身を潜めたまま、階段を駆け上がってゆく。

 二階は、広い通路といくつかの客室が見える。

 構造として、前後にも左右にも幅が広く、しかし全体としてカーブした造りのため、階段一つからフロア全体を伺う事は出来なかった。

 なので、センサーで探りながら、目視確認の意味でも、フロアを移動しつつ確かめる。

「二階フロアも、反応はありませんわ」

「OK」

 階段は、各フロア毎に繋がらない位置にデザインされていて、二人は全裸にブーツのまま、廃ホテルの中を走り抜ける必要があった。

 データに従って新たな階段へと辿り着いて、上層へと上がる。

 三階、四階と同じ捜査とチェックを繰り返し、裸の二人は、五階へと続く唯一の階段へと到着をした。

「この上だね」

「ええ」

 これから、犯人グループと対峙をする。と考えて良いだろう。

 相手が許されざるべき犯罪者であり、自分たちは犯罪者を無力化する捜査官。

 という使命感に揺るぎはないものの、やはりうら若き女性が凶悪な男たちの集団と全裸で対峙するのは、恥ずかしさと身の危険を、同時に強く意識させてしまう。

「まったく…なんでこのアイランドに逃げ込んだかな。想像は出来るけど」

「猥褻物陳列強要罪 などの刑罰があれば、適用できますのに」

 捜査官の意地とプライドでここまで来たけれど、現状などを考えると、気品あふれる頬が羞恥で上気。

「今更だけどさ、投降を呼びかけても…まあ 聞かないよね」

「警戒をして、かえって身を潜めるでしょうね」

「だよね」

 五階フロアへと静かに上がって、僅かに顔を覗かせて、確認をする。

「人影はないね」

 と言っても、広いフロアには廃材のような大型の廃棄物が放置されていて、フロア全体を見る事は不可能だ。

 しかも窓には廃材の板が立てかけてあり、小さな隙間くらいでしか、外光は入っていなかった。

「人間の反応、十五 ですわ」

「覗き魔十五人、ここに隠れているわけだね」

 広間の、遠い中央の床に、焼け焦げが見える。

「ここにいて 隠れてる」

「つまり…バラリー団は 私たちが追ってくる事を想定している。と考えて…」

「間違いないね」

 意外と警戒深いというか。

 正直、隠れて安心して宴会でもしているのでは、とかの想像もしていた。

 湖の覗きで、二人を観光客ではなく追っ手だと、気づいたのか警戒したのか。

 とはいえ、それで覗き魔を見つける事が出来たのだから、致し方ない事だろう。

「作戦②で行くよ」

「ええ」

 二人は一緒に息を飲むと、全裸の肢体を暗がりへと踊り出させる。

 隠れているバラリー団は、中央の焼け焦げに誘き出される全裸の女性捜査官を嘲笑してやろうと、隠れて注視している事だろう。

 その思惑通りに飛び込んでやれば、犯罪者たちは全裸の女性二人を相手に、余裕と油断で姿を見せる。

「って なって!」

 マコトが前を走り、ユキが付いて走る。

 窓からの細い光を受ける裸身は、艶めかしく扇情的な肌のシルエットと白さを、チラチラと闇に浮き立たせていた。

 焼け焦げに走り付いて、ちょっと小芝居。

「いないっ! 一歩、遅かったかな…!」

「ですが、ビークルは外に残ってますし、まだこのフロアに潜んでいる可能性も、ありますわ!」

 追跡失敗。

 という体を演じたら、薄暗い広間に、男たちの笑い声が轟いた。

「「「ッアーッハッハッハッハァ!」」」

「ようこそ、飛んで火にいる裸の捜査官様ぁっ!」

 全裸のマコトとユキは、廃材から姿を現した凶悪犯の男たち十五人に、ズラりと取り囲まれていた。


                      ~第六話 終わり~

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