第一話 犯罪グループの逃走


 地球世紀三四五六年。

 その事件は、地球標準時にして一日前、つまり昨日に発生をした。

 地球連邦の、とある領有惑星でここ数週間、異星人の犯罪集団によるノックアウト強盗が頻発。

 該当の惑星警察が犯罪組織のアジトを特定して襲撃、一部のメンバーを逮捕出来たものの、リーダーを含むメンバー十五人が、宇宙船にて逃走。

 強盗団の名は「バラリー団」という、暴力上等な悪党集団である。

 惑星警察から連邦警察へと警戒報告が上がり、領域内での、銀河広域指名手配懸案へと発展をした。


 パトロール中の警察航宙船も巡回をする中、たまたま惑星ビンプルン近くをパトロール航行していたホワイト・フロール号が、手配の宇宙船を発見。

『こちらは地球連邦所属 特殊捜査官ホワイト・フロール–』

 いつもの警告を発すると同時に、犯罪者の船も、いつもどおりの抵抗射撃を開始してきたのである。

「あいかわらず、物分かりがよろしくありませんですわ」

「本当にね」

 優雅なお姫様のように愛らしいユキが、白鳥型の宇宙船をヒラりヒラりと飛翔させて、レーザーや熱線をかわす。

 美しい王子様を想わせる中性的なマコトが、正確な射撃で、撃ち出された大量のミサイルを一発残らず迎撃をする。

 犯罪者たちの宇宙船に増設された攻撃兵器を次々と無力化し、逮捕への仕上げとして、宇宙船のエンジンの駆動系に損傷を一発。

 とマコトが構えたら、犯罪者の宇宙船は強力な違法エンジンを全開にさせて、なんと惑星ビンプルンの夜間地域へと、高速で突入をした。

「ぇえっ?」

「にゅ…入星して しまいましたわ」

 どこの惑星でも、宇宙船の強制突入は問答無用の死罪であり、警告を無視した突入だと判断された場合、該当の宇宙船舶はテロリスト認定され、惑星の防衛権によって破壊処理をされても文句は言えない。

 それが、難なく入星をしてしまったのだ。

「つまり」

「あの犯罪グループの、まあリーダーだろうけど…この惑星の行政関係者、あるいはその関係者筋…の可能性は あるよね」

「ですわね」

 衛星軌道上に停止した純白白鳥は、惑星からの照り返しでキラキラと輝いている。

「とにかく、まずはクロスマン主任に 報告だね」

「ええ。怠ると 叱られてしまいますもの」

 ニコやかな圧力を思い出し、身震いする二人。

 マコトはネコ耳とネコ尻尾を、ユキはウサ耳とウサ尻尾を、それぞれプルルっと震わせた。

 主任への報告の結果、応援を寄越すと指示された二人は、自分たちで解決しますと進言。

『そうか、解った。二人の活躍を、ぜひ期待しているよ』

 と、追跡捜査の許可を得て、通信を終えた。

 魅惑的な肢体を、銀色のメカビキニで包んだ、二人の特殊捜査官。

 ネコ耳のマコトはブリッジのシートで身体を伸ばして背筋を逸らし、豊かな双乳を張りつめさせる。

「んん…ふ…。主任の許可が下りたし、あの犯人たち、ボクたちで逮捕しなくちゃね」

 ユキはシートから立って、目の前の大型モニターに映し出された惑星ビンプルンを、注視している。

 コンソールに両手をついて、突き出される格好な大きいヒップは、艶々で丸くて柔らかく上を向いていた。

「ですわ」

 二人のメカビキニは、恵まれたプロポーションにピッタリフィットしていて、面積も大胆だ。

 巨バストは谷間も横も下も柔脂肪をはみ出させていて、丸い巨ヒップはハイレグマイクロボトムに極細Tバックと、デザインも特別仕様である。

 メカグローブやメカブーツは捜査官の既製品だけど、スーツが特別デザインなのは、地球連邦政府の宣伝にも一役買っている為だ。

「それにしても」

 二人が自分たちで逮捕する事に拘ったのは、特殊捜査官としてのプライドと責任感だけではない。

「あの犯人たち、きっとヌーディストの多い地域に 逃げ込んでいるだろうね」

「そうすれば 私たちは追って来られない。そう考えているのでしょうし」

 追っている捜査官、ホワイト・フロールは若い女性だから、裸の客が多い地域に逃げ込んでしまえば、恥ずかしくて追跡を断念する。

 と、犯罪者たちは考えているのだろう。

「そんな逃げ方を 許してしまったらさ」

「今後もずっと、犯罪者たちに逃走の隙を 与えてしまいますわ」

 何より、二人が尊敬し目標にしている、鬼の捜査官と恐れられたご先祖様たちに、会わせる顔が無い。

「とりあえず、入星の申請をしようか」

 マコトがステーションの通信を開こうとして、ユキが止める。

「お待ちになって。その前に一日だけ、お時間を戴けますかしら」

「ん?」

 こうして、翌日の今日を迎えた。


「惑星ビンプルンの入港ステーション、応答願います」

 ユキ曰く準備が整ったので、マコトが入星許可を申請する。

「滞在目的は観光です。久しぶりの休暇なもので」

 犯罪グループが行政者と関係があれば、追っているのがホワイト・フロールだと知られているだろうし、入星管理局にも何かしらの通達がされている可能性がある。

 とはいえ、最初から真正面で突撃することもないし、そもそもブラックリストに載っているわけでもない観光客を拒否する理由も、ビンプルンにはない。

 なので二人は、偽名のパスポートを使って、入星の申請をした。

『ようこそ。自由と解放のリゾート 惑星ビンプルンへ♪』

 入星管理係のお姉さんが、ニッコリと微笑んで、二人に入星の許可を伝達。

 宇宙船ホワイト・フロール号は、表面装甲の空間隠蔽機能によって、色が薄いピンク色に変化し、花吹雪の模様も浮かび上がっている。

「お船の偽装も バッチリですわ♪」

 二人は、悪評の意味でもセクシーな意味でも、銀河ではそれなりに知られている。

 当然、違法にならないギリギリでオリジナルに似せたデコレート宇宙船も、富豪たちの間ではそれなりの数が存在していた。

「本物が偽物として入星申請。なんだか 罰が当たりそうだよね」

「嘘も方便という諺に倣いましてよ。これも、犯罪撲滅の為ですわ」

 なので、捜査官特権は適用できず、宇宙船はステーションに駐留させるしかない。

 二人の服装も、捜査官の制服ではなく、年頃に相応しいラフなスタイル。

 ユキは、白いワンピースに鍔の大きな帽子で、お嬢様そのものな衣装。

 マコトは、タンクトップにショートジーンズと、ボーイッシュな恰好だ。

 二人とも、清楚で高貴で、よく似合っていて美しい。

 ゲートを通過できた特殊捜査官たちは、それでも、相手が二人の正体を知っている。と想定をして、追跡任務を進めた。

 接続ハッチからステーションに入り、更に惑星表面へと降りる手続きを取る。

「ユーキ様、マコ様、どちらのアイランドをご希望されますか?」

 ビンプルンの島々は、それぞれにドレスコードを含めて、厳格なルールがある。

 それぞれの場所に入るには、当然ルールを尊寿しなければならないし、万が一にも禁忌を犯した場合、大変な罰金を支払らわなければならないのだ。

「そうですね…」

 犯罪グループが惑星に突入した時のトレースでは、島々の中では離れた遠洋に存在している「Z‐〇三 ヌーディスト・ペンギン・アイランド」という、バカンス島の西の海へと降下して行った。

 周囲の外洋から考えるに、墜落海域から極めて近いこの島へと逃げ込んでいる可能性が、最も高い。

「ペンギン・アイランドを」

 ユキが申請をして、了承を得る。

「承りました。それでは、Z‐〇三 通称ペンギン・アイランドに関する規則を ご説明いたします」

 爽やかな笑顔の女性コンシェルジュによる説明に、二人は内心で驚かされた。

「ペンギン・アイランドは、女性ヌーディスト専用のアイランドで御座います」

「「はい」」

 それは想定している。

「女性のお客様には、現在のご衣裳も含め、着衣は原則禁止。アイランド内で身に着ける事が可能とされますのは、ブーツや手袋、アクセサリー類やメイクのみで、それ以外は禁止とさせて戴いております」

「「…はい」」

 全裸にブートにアクセサリーのみ。

 恥ずかしいけれど、それも想定内だ。

「アイランド内の全ての施設は、エステやレストラン、スパやアミューズメントまで、全てをご自由にご利用可能で御座いますが、その際やアイランド内を散策される際にも、先の規則は絶対で御座います」

「「…はい…」」

 島の中を、ブーツなどを履いただけの裸で歩き回れ。という事だ。

 犯罪捜査が本当の目的である二人には、可能性を想定していたとはいえ、実際に説明されると恥ずかしい。

 しかし二人が最驚かされたのは、最後の説明だ。

「島内の職員は全て男性でございまして、職員はみな、失礼の無いようタキシードを着用させていただいております。ペンギン・アイランドは女性のお客様限定のリゾートアイランドで御座いますので、一般男性にヌードを見られてしまう心配は、一切ございません」

「「はい…ぇえ…っ!?」」

 犯罪者たちが逃げ込んだ島は、コンシェルジュである男性従業員たちはビシっとタキシードに身を包み、女性客たちはみな裸。

 という、かなりニッチな女性客向けの、リゾートアイランドであった。

 全裸で街を歩くのも恥ずかしいのに、従業員とはいえ男性たちがいて、しかも彼らは着衣だという。

 それゆえ、リゾートの名前が、ある意味で女性主眼の「ペンギン・アイランド」なのだろう。

 マコトたちからすれば、一方的に裸を晒すに等しい、恥ずかし過ぎるアイランドだ。

「そ、そぅですか」

 捜査官としてのプライドと、少女としての羞恥心が、ボクっ娘なマコトの中で激しく葛藤をしてしまう。

 そんなマコトの美しい悩みフェイスに、女性コンシェルジュが伺う。

「別のアイランドに、ご変更されますか?」

 はい。あ、いえ。

 返答に逡巡するマコトに変わって、ユキが堂々と返答をする。

「いいえ、ペンギン・アイランドを希望いたしますわ」

「え、は。はい」

 と後に続いたマコトは、全裸捜査なのに臆することのないユキの度胸というか、自信というかに、あらためて脱帽をした。


                       ~第一話 終わり~

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