イカサマ発表。

「こ、こんなに人が集まるのかよ……」

「オレも予想外だ……」


5分後のカードゲーム部前には騒ぎを聞きつけて、50は軽く超える人数が集まっていた。


『おいおい、お前らどんな手を使って勝つつもりなんだよ』

『教えろよー』

『正直私はそれ目当てで来た』

『うちも』


……まじかよ。


「おい山市、なんか趣旨変わってるんだが。謎解きの答え合わせみたいになってるぞ? これ結構ハードル上がってると思うんだが」

「……だな」


そんな大層な答えは用意していないんだが……。


「えー、じゃあお前ら、大人しくこたつは俺らのものでいいだろ?」


『それは駄目』

『そのこたつ、学校の規則的に割とグレーだろ?』

『黙っといてやるからさ』


……そこを突かれると反論できない。


「まあいいか、よし時間だな」


俺と二宮がそれぞれの椅子の上に立つ。


「皆さん良いですか? 再確認しますがこのじゃんけんの勝者がこたつの所有者です。そして、じゃんけんを始める前にこちらからちょっとした条件を出します」


皆の注目が集まる。


「えー、どうやらみなさん勝ち目がないことを理解しているようなので、趣旨を変えて楽しんでいきましょう。本当はじゃんけんの直前に提示するつもりでしたが、もう条件を発表しまーす。皆さんで対策を考えながらやってきましょー」


『おいおいw』

『なんだよそれ』

『まあそっちの方が楽しそう』


笑い声が聞こえてくる。好意的に受け止めてもらえたようで何よりだ。


二宮に目配せする。


「条件は……グーを出したやつは負けだ!」


『やっぱそう来たか』

『一発で勝負が決まるって言ってたしな』

『でもどうやって?』

『チョキ出すしかないっしょ』


「えーこの時点で、皆さんの選択肢はチョキかパーの2択です。ここで大きなヒント! 実は俺たちの描いていたシナリオは、全員負けて勝利者なし、よってこたつは誰の手にも渡らず、元の所有者である更科、つまり俺たちのもの、というものです」


『そんなのありかよw』

『じゃんけんで全員負けとかあり得る?』


「分かった奴はいるか? 手を挙げてくれ!」


二宮が叫ぶと、最前列に陣取っていた一条先輩が手を挙げた


「それは──を出すつもりだったということか?」


『え? どういうこと?』

『グーを出したら負けなんじゃないの?』

『説明求む』

『フッ、そういうことか』


皆の視線が一条先輩に集まる。


「確かにグーを出すと負けと言われたら俺たちは皆チョキを出すだろう。しかし、グーを出したら負け、それはつまりグーを出してもわけじゃない」


『え、どゆこと?』

『お前さっき分かったって言ってただろ』

『なるほどな……』


「つまり、カードゲーム部はグーを出したペナルティによって負け、そして俺たちはでチョキがグーに負ける。これで勝者無し。こういう筋書きだったということか?」


「なるほどなるほど、そういう考えもあるでしょう」


頭のいい奴はすぐにその考えに辿り着くだろう。


「しかし──そのプランは落とし穴がありますよね?」

「そうだ、これはリスクが大きすぎる。誰かがパーを出せばじゃんけんのルールはあいこ、しかしカードゲーム部はペナルティで負けてしまう。事実、その条件なら俺はパーを出して阻止するつもりだった」


『た、確かに……』

『だよな。そう思ってたんだよ』

『もう恥の上塗りは止めとけ』


「わざわざ人数無制限に設定したのも完全に悪手になってしまう。自爆覚悟でグー、チョキ、パーに、ばらけさせた部が一つでもあったら終わりだ」

「その通りです。その方法では確実に全員が同時に負けることはできません。では他に、「我こそは見破ったり!」という人はいませんか?」


誰も手を上げない。そろそろ潮時だな。


「えーじゃあそろそろ正解発表といきましょうか。いやー我ながらいい問題設定だったと思うんですよね。まずこのじゃんけんというものすごく身近なものを扱ったところとか。きっとみなさんも、つい興味を誘われたんじゃないですか?」


『自分で言うなよw』

『なんか悔しい!』


「こちらが自由に条件を付けることができる以上、一見こちらが圧倒的有利に見えます。しかし、じゃんけんというのはどれだけ考えても3通りの手しかありません。無茶な条件を付けない限り、負けないことはあっても、最後の一人として勝利を掴むのは難しいでしょう」


『意外にそうなんだよなあ……』

『だから分からないんだよね』


「そしてそこに、“一発で勝負が決まる”という、じゃんけんには似つかわしくない条件。これだけの人数を集めて、まずあいこにならないわけがありません」


『だからグーを禁止したんだよね?』

『でもここにいる全員を思い通りに操るなんて不可能じゃないか?』


「ではいよいよこのイカサマの発表です」


『自分で言うのかよw』

『わくわく』


「その前に最後に一つ確認を。前もって言った“無茶な条件は提示しない”という宣言。この“無茶”という定義は人それぞれです。難癖を付けようと思えばいくらでも付けられます」


『そうだよね……』

『俺はそのつもりだったぞ!』


「それを防ぐために、具体例と全く同じ条件を提示しました。あの時、言いましたよね? 「先ほど提示したような具体例の条件を容認できない方は参加権がありません」って」


『た、確かに……』

『前もって可能性を潰していたのか』


「さあ、それでは本当に正解発表です。では実際に皆さんでやってみましょうか。いいですかー、グーを出した人は負けですよー? もちろん反則も即失格ですよー? ……よーし二宮! お前の泉ちゃん魂を見せつけてやれ!!」

「よーし、お前ら! 泉ちゃんじゃんけん、行くぞぉおおおー!」



『『『『『『『『おおー!』』』』』』』』



「最初は──」



『『『『『『『『!』』』』』』』』



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君はこのじゃんけん──見破れるか?~こたつをかけて争った雪国の高校生たちの一幕~ izumi @Tottotto7

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