⑨
塔の最上階は居住区域になっていた。
何やら腑に落ちないというか、疑問符が頭上で点滅しまくってる状態の俺とロゼ。
先ほどまで結構シャレにならない感じで剣呑にバトルしてたその相手の背中に、それでも警戒もせず附いていった。
「お姉ちゃん!」
「ロゼッタ?」
案内されたその部屋で、ロゼは姉との悲願の再会を
――のだが、どう見ても相手側の反応がおかしい。俺たちが想定していた、こういう場面での劇的というかドラマチックな雰囲気などは
「どうしてここに? わざわざ会いに来てくれたの? わあ、嬉しい! お休みが貰えたら、こっちから帰るつもりだったのに」
そう、二人の温度差が激しく喰い違っていたのだ。言ってしまえば、ロゼの姉のティゼットはどう見ても「無理矢理」に連れ来られて監禁されているという顔はしていない。
「えっと……あの、お姉ちゃん?」
「なあに、ロゼ?」
「その……」
姉妹なだけあって二人は良く似た顔立ちだ。
けれどティゼの方がおっとり感というか、ほんわか感がとても強い。一歳違いだというのにぺったんこのロゼとは真逆で胸もふくよかだった。
ティゼットは久しぶりの妹の姿が余程に嬉しいらしく、彼女のその両手をぎゅっと握って離さない。
対するロゼは、これまで相当に
さっきから薄々と感じていたその事柄が確信に変わり、もう言葉にする以外なかった。
「あのー、俺もなんか察しちゃったんだけど……。ロゼ? もしかして君、すっごい勘違いをしていた?」
「わあ! 喋ったわ!」
「……えと……ええっと……」
それを見かねたかのように横合いから件のゲアルト当人が口を挟む。
「お前たちの懸念は正しい。ただ悪いのはこの子ではなく、あの遊惰で放漫などうしようもないポンコツ女だ」
マントや装具を脱いで椅子に深々と腰を着けた彼は、付き合い切れんという渋い顔をして天井を仰いでいる。
「あのー、ゲアルトさんはロゼ達の師匠さんとはどういう関係なんです?」
「……」
言葉に出来ないという風でなく、本心からその事柄について
「わたしも知ってびっくりしたんだけど、二人は幼馴染みなんですって」
「ティゼット――余計な事は喋らなくていい」
「浅からぬ因縁があるとか?」
「……」
またも押し黙ってしまった。
なんだろうか、これ?
少なくとも命のやり取りをするような、そんなギスギスした関係ではやっぱりなさそうだ。
「ティゼットをここに連れてきた時の反応で、多少なりと察してはいた。あの女がどういう類の嘘をお前達に吹き込んだかを。しかしそれがこうまで過剰に
長年付き合ってきた片頭痛を抑えるかのような、そんな手振りのゲアルトだった。
どうやら曲者なのはレオノーラという人の方らしい。
思えば俺、この世界にやって来てから話をしたのはママンを除けばロゼ一人だけである。古竜種である事を気取られてはいけないという理由でそういう生活を余儀なくされていたが、成る程、これじゃあ物の見方が
「お前たち二人はずっとあの女――レオノーラと一緒に暮らしていたのか?」
話の矛先を変えるでなく、むしろその延長であるかのようにゲアルトは姉妹に疑問を投げかけた。
「師匠に引き取られてからは……たしか、ずっと各地を旅してたような。すぐお傍で面倒を見て貰ったり、見て差し上げたりの毎日でした」
「片時も離れずにか?」
ティゼットは段階的に思い出しながら言葉を紡ぎ、それに再び質問を被せるゲアルト。
「お仕事か何かでわたしたちを連れていけない時はいつも隠れ家の一つで留守番でしたよ。そうだったわよね、ロゼ?」
「う、うん……。長い時だと二ヶ月以上は帰ってこない事も。あたしたちは師匠が残してくれた道具とか符呪されたお札とかを売って生計を立てていて……その……」
「それが本当に〝仕事〟で行方を
「え? どういう……?」
しかし首を傾げるロゼを差し置いて、ゲアルトが
「わかった。ならばあの場所だろうな」
唐突な事の成り行きに俺たち三人――二人と一匹か――は顔を見合わせた。
「あの場所とは……?」
「心当たりが一つある。姿を見せないでいる、あの女の居場所の心当たりが――」
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