第20話 ゴブリンと遭遇

「ゴ、ゴブリン!?」


声をあげてしまう。


ゴブリンの子供はこちらに気づきますが、

足を怪我して動けないようです。


「あっと、大丈夫!?」


それを見て思わずゴブリンの子供に近づく。


押さえる手をそっとどかすと、

足首が赤く腫れていました。


「ちょっと待って。

 手当てしてあげるから」


私はカバンを下ろして中から包帯とすり鉢とすりこぎを取り出す。


「この近くに薬草に使えそうな草は……

 ……あった!」


近くに生えていた白い小さな花を摘み取る。

ハクビジンソウと呼ばれる、多くの山に自生する花。

葉に鎮痛作用のある成分が含まれていて、

医療では麻酔にも使われたりもしています。


その葉をすり鉢に入れ、すりこぎでペースト状にして、

赤く腫れた肌に塗っていく。


「痛ッ!」

「染みると思うけど少しだけ我慢してね」


そのあと包帯でグルグル巻きにして、

患部を覆い隠す。


「どう?これで歩ける?」


ゴブリンの子供はゆっくり立ち上がると、

その場で何度か足踏みした。


「ウ、ウン。アリガト」


ゴブリンは頭を下げてお礼を言った。


「助けてよかったの?僕たちからすれば魔物だよ?」


その様子を黙って見ていたリュトさんが口を出してくる。


「分かっています。

 でもまだ子供だったから、

 ほうっておけなくて…」


そう。目の前にいるのは魔物。

いくら相手が子供でも、危険なことには変わりない。

浅はかなことをしたと、少し反省した。


「まあいいや。

 ねえお前。

 この洞窟、どこまで繋がっているか分かる?」


リュトさんはゴブリンの子供に、

今まさに入ろうとしていた洞窟の続く先を尋ねた。


「奥ノコト、知ラナイ…

 デモ、僕タチ、

 コノ中デ、暮ラシテル…」


言葉を一つ一つ選ぶように、その子はゆっくりと答える。


「暮らしてる?ゴブリン達が?」


頭の中で思い描く。


暗闇にたくさんのゴブリン――

ゴツゴツした岩に足をかけ――

高笑いしながら獲物を狙う視線の数々――



恐ろしい光景を想像してしまい、ブルッと身震いする。


「じゃあそこまで案内して貰っていい?」

「え!?!」


リュトさんの思わぬ提案に驚いた私は、


「大丈夫なんですかリュトさん!?

 こんな子供でも魔物だって自分で言ってたじゃないですか!」

「でもホラ、どのみちどこかで休まなきゃでしょ?」


リュトさんは空を見上げる。

気づけばすでに陽は沈み、空は真っ暗になっていました。


「で、でも…」

「イイヨ、怪我ノ、オ礼」


ゴブリンの子供はそう言うと、

私たちの横を通って洞窟に入っていった。


「どうする?追いかけないと見失うよ?」

「あぁもう……!

 分かりました。

 リュトさんがそれでいいなら行きましょう」


私たちはゴブリンの子を追って、

洞窟へと足を踏み入れるのでした。

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