第18話 ライバル登場?

≪港町ヴィーゼル≫を出た私たちは、次の目的地≪遺跡都市シエンティア≫を目指し、草原をのんびり歩いていました。

すると――


「見つけたぞ!リュト=カーディス!」


突然後ろから大声で呼び止められた。


「あちこち探し回ったぞ…。あのとき受けた借りを

 返すためになあ!」


立っていたのは、鎧姿の青年でした。

荒々しそうな顔。

棘のように跳ねた金髪。

肌はリュトさんより少し黒っぽい。


「誰ですあの人?

 リュトさんの知り合いですか?」


耳元でぼそっと尋ねてみますが、

う~ん、と首を傾げるリュトさん。


「えっと、どこであったっけ?」

「忘れたのかよ!?

 勇者を決めるあの最初の試練の時!

 最初にお前に斬りかかりにいった男だ!」


逆方向に首を傾げるリュトさん。

どうやら全く覚えていないみたいです。


「あー…とりあえず私は初対面なので、

 まずは名前を教えてもらえませんか?」


ピリピリした空気がさらに悪くなりそうだったので、

間に入って相手の気をなだめる。


「……フン」


こちらを軽く睨み付けた後、鎧の人は自己紹介した。


「ディオン=アルヴァトラ。

 ≪エンデュラム≫から来た」


≪エンデュラム≫――聖地とも呼ばれる遙か南西の都市のことです。

確かななにかの神を信仰していて、各街にも布教を行っているとかいないとか。


「それでディオンさん。

 リュトさんを探していたようですけど、

 借りを返すってなんですか?」


「忘れもしねえ…

 あのとき斬りかかった俺は、

 気だるそうな顔したソイツに

 木刀の一振りであっさり吹っ飛ばされた…」


ああ、ソフィ様も言ってましたね。

最初の試練でリュトさんが候補者全員吹っ飛ばしちゃったって。


「屈辱だった…

 この俺が、こんな奴にあっさり敗北するはずがないと…

 そして決めた!アイツを探し出し、再戦を挑むと!

 次こそあの間抜け面をぶちのめし!

 俺が真の勇者だと証明してやるとな!」


「ちょ、ちょっと待ってください!

 ソフィ様は、リュトさんを勇者に決めたんですよ?

 ここで勝負をしたってなんにもならないじゃないですか!?」


「それこそ他に動ける奴がいなかったからってだけだろ!

 だが俺はこうして戻ってきた!

 だったら俺が改めて勇者を名乗ったって

 なんの問題もないはずだろ!」


支離滅裂なことを言っているように聞こえますが、

あのときのソフィ様や周りの反応を思い出すと、

仕方なくリュトさんを選んだといったかんじでした。


ディオンさんの実力が確かなら――

試練でリュトさんと戦うことがなければ――

この人が勇者に選ばれることもありえたかもしれない。


「そういうわけだ。

 もう一度俺と勝負しろ!」


鞘から剣を抜き、リュトさんに切っ先を向ける。

値が張りそうな、綺麗な装飾が施された剣。


「めんどくさいなぁぁ…

 フェルムが代わりに戦うんじゃダメ?」

「この状況で私を引き合いに出さないでください!」


当然私は全力で拒否した。


「はぁぁぁぁ…………」


長い溜め息をついたリュトさんは、


「仕方ない。このままずっと追いかけられるほうが

 ずっとめんどそうだし…」


渋々剣を鞘から抜き取る。


二人が見合う。

邪魔にならないよう、私は少し離れた位置から見ることにしました。


「……行くぞ!」


最初に仕掛けたのはディオンさんだった。

剣を構えたまま全速力でリュトさんに迫る!


「おおおおぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」


その勢いのまま、剣をリュトさん目掛けて振り下ろされ……る瞬間――


ガキィン!


剣は宙を舞った。

ディオンさんが握っていたはずのその剣は、

2回、3回と空を斬り、地面に突き刺さった。


決着は――リュトさんの安物の剣の一振りで決まった。


「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ……」


剣を振り切った態勢のまま、歯軋りするディオンさんは、


「おぼえてろーーーーーーー!!!」


サッと向きを変え、凄い速さで逃げ去っていった。


……清々しいくらいの小物っぽい逃げっぷりでした。




「……行こっか」

「はい…」


ディオンさんの姿が見えなくなったのを確認した後、

私たちは再び目的地へと歩き始めました。




心の中で大きな溜め息をきながら……

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