第17話 緊視眼

大立ち回りの末に倒されたひったくり犯は、そのまま見廻り隊に引き渡されました。


カバンを女性に返したミュウミュウさんの所に寄ると、


「ミュウミュウさんすごいです!あんなに戦えたんですね!」


私は彼女に賞賛を述べた。


「たいしたことじゃないって~。これでもミュウミュウ、前は冒険家もやってたんだから~」

「え!?冒険家だったんですか!?」

「かなり前の話だけどね~。でも私には合わなかったって言うか~、もっと目立つ仕事がしたかったって言うか~」


ミュウミュウが自慢げに思い出を語っているところに、リュトさんも近づいてきた。

ちなみにひったくりとミュウミュウさんが戦っている間、リュトさんはギルド内から様子を見ているだけでした。


「さっき、悲鳴が聞こえる前に外の方を見てたよね?

 もしかして事件が起きるって分かってた?」


リュトさんが口を開いた。

そういえば、彼女が地図から目を逸らして、

そのすぐあとに悲鳴が聞こえてきました。


「へ~ぇ、案外見てるもんなんだね~。先輩として関心☆関心☆」


そういいながら、リュトさんの頭をなでるミュウミュウさん。

リュトさんは嫌々そうに、彼女の手を払った。


「【緊視眼シリング・アイ】って聞いたことない?

 一定の範囲内に存在する人や物の位置とか形とか動きとか、

 一瞬でぜ~んぶ把握出来ちゃうって魔法なんだけど~」


その魔法の力で、ひったくりを起こそうと怪しい動きをする

男の存在を認識できたんだ、って彼女は説明した。


思い返せば、私たちが掲示板を見ていたとき、

ミュウミュウさんは後ろから声をかけてきた。

後ろ姿しか見えていなかったはずなのに、

私たちをだと言ってきた。

あのときも【緊視眼シリング・アイ】で顔をから分かったのでしょう。


「なるほど納得した。

 じゃあもう用事は済んだし、そろそろ出よっか」

「あ、はい。そうしましょう」


そうでした。

ドタバタして旅の目的を忘れるところでした。


「それじゃあミュウミュウさん。ありがとうございました」

「はいは~い、またいつでも遊びに来てね~☆」


大きくお辞儀をして、ミュウミュウさんと別れ、

私たちは≪港町ヴィーゼル≫を出発しました。









「う~~ん、何かあの子たちに話し忘れたような……」


2人が去ったあとのギルド内で、

ミュウミュウは何かを思い出そうとしていた。

――何か重大なことを忘れている気がして。


「あ!!!」


大声と同時に、尻尾がぴーんと伸びる。


「大変大変!なんでこんな大事なこと忘れちゃってたの~

 ミュウミュウのバカ☆バカ☆バカ!」


両拳で頭をポカポカしながら騒ぐミュウミュウ。


「ガルラン山脈!そこの洞窟!

 確かあそこは今…

 あの子達大丈夫かなあ、

 今からでも追いかけて――」


言いかけたそのとき、


「ミュウミュウさーん。

 頼んどいた書類、ちゃんと整理しといてくれたー?」


彼女はギクリ!とその場で跳ねた。

明日ギルド本部に送る書類の整理を、

上司から頼まれていたのだが、


「あーー、カルム先輩……、

 そーいえばそんなのもありましたっけねぇー

 あははははは………」


彼女はすっかり忘れていた。

おどおどと喋る彼女に上司のカルムは、


「あはは、じゃない!!

 明日送るって言ったじゃない!

 今すぐやってきなさい!!」

「は、はいぃぃ!!おおせのままにぃぃぃ!!」


上司にこっぴどく叱られ、事務室に消えていくミュウミュウ。


そんな彼女の情けない後ろ姿からは、

もはやアイドルオーラなど微塵も感じられなかった。

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