番外1 港町ヴィーゼル再び
カランカラン
「あら?あなた達、また来たの?」
≪ヴィーゼル≫に戻り、昨日泊まった宿屋に入ると、
今朝会ったおばあさんが店番をしていた。
「あはは…まあ色々ありまして」
「そうなの?じゃあ今日も泊まっていく?」
「はい。またお世話になります」
それを聞くと、おばあさんは宿帳を取り出しペラペラめくり出す。
「あらあらごめんなさい。昼に船で来たって人たちがたくさん泊まりに来ていてねぇ。今1部屋しか空いていないのよ」
申し訳なさそうに答えた。
昨日は別々の部屋にしてもらったから、それを気にしてくれたようです。
「あ、いいですよ。相部屋でも」
「あらそう?2人がいいならすぐに用意するわ」
私は後ろに立っているリュトさんをチラッと見る。
私の意図を汲んでくれたのか、無言のまま首を縦に振ってくれました。
部屋に入るといきなり、
「寝る」
リュトさんはベッドに寝転び、寝息を立て始めた。
「やっぱりこうなるんですね…」
私は今日何度目かの溜め息をつく。
まあ今日は背丈ほどの大きさの卵を3つ抱えたまま走って、
そのあとドラゴンと戦ったんですし、
さすがのリュトさんも疲れたんでしょうね。
「あ、そうだ」
昨日町を散策したときに考えていたことを思い出し、
ベッドのリュトさんを置き去りに部屋を出た。
「ん……」
「あ、やっと起きましたか」
リュトさんがのそりと起き上がる。
外はすっかり日が暮れ、町には街灯がともっていた。
目をこすりながらこちらを見たリュトさんは、
「これ…」
テーブルの上を見る。
そこには、町の店で買った食材で作った2人分の料理。
「好みが分からなかったので、お口に合うかは分かりませんが」
ゆっくりベッドから降りて、椅子に座るリュトさん。
スプーンを取り、一番手前のスープを掬って流し込む。
「……おいしい」
「ほ、本当ですか?」
「うん」
「よかったぁ」
一安心した私も、テーブルに向き直ってスープを飲む。
スープの熱と肉の旨みが、疲れた体を内からじんわり暖めてくれる。
その後私とリュトさんは、用意したスープとサラダを残すことなく食べきりました。
ザァァァァァァァ……
キュッ、キュッ
「お風呂、先に頂きました」
タオルで髪を拭きながら浴室から出る。
リュトさんはまたベッドで寝転んでいる。
「リュトさん、せめてお風呂には入ってくださいね」
「ん…」
ゆっくりベッドから起き上がり、嫌々ながらも浴室へと向かっていきました。
「はぁ…」
言われなきゃ入らないつもりだったのか…
またまた私は溜め息をついた。
この先の旅でも、きっとこんなやりとりが続いていくんだろうなあ。
「でも、諦めたくないって言ったんだもんね」
私はカバンから杖を取り出し、ギュッと握りしめる。
これからの旅の行く末に、期待と不安を抱きながら。
「ふぁぁ…」
私も眠くなってきた…
ふらふらとベッドに歩いて行き、
バタン
倒れ込むようにベッドに沈むと、そのまま意識を手放した。
「……寝る場所盗られた」
浴室から出てきたリュトさんに、呆れ顔をされているなんて知る由もなかった。
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