第12話 洞窟の戦い②

ズシィィン!ズシィィン!


竜は一旦、距離を取るため二人から離れる。


それを確認したリュトさんが剣を置き、私に話しかける。


「…大丈夫、じゃないよな。どう見ても」

「当たり前…じゃないですか…」


こんな状況でも、話のトーンが全く変わらないリュトさん。


「僕、薬なんて持ってないんだけど、なんかない?」


何もないのに来たんですか?

…と思ったけど、そっか。全部私が持ってっちゃったんでした。


港町で念のためにと買い溜めしておいた回復ポーションは、竜の一撃で全て割れてしまいました。

だから私は、


「はぁ、はぁ、

 ローブの、

 左の、裏ポケットに、ハァ、

 薬草が、

 いっ…ぱい…!」


息を荒げながら、なんとか言葉を紡ぎ、伝える。


と、リュトさんは表情そのまま、ローブの中に手を突っ込んできました。


「…!これか?」


手を抜き取る。その手には薬草がたくさん握られていた。


「それ…!

 口に…、

 全部っ…!!」


「……そんなことして大丈夫なのか?」


流石に不安になったらしいです。

私は コクンコクン、と首を縦に振った。



グワァァァァァァァ!!!


さっきの竜が再び迫ってくる!


「リュ…さ…!!」


ズシャアァァ!!


ギャアアアアアアア!!!


血潮が飛ぶ。リュトさんの血じゃない。

その血は今まさに彼に噛みつかんとした竜のものでした。

地面に置いた剣を素早く手に取り、襲ってくる竜を目視せずに斬ったのです。


「…時間も無いし、信じるよ」


ソレを聞いた私は、できるだけ口を大きく開けて、

そこにリュトさんが薬草を突っ込んだ!


「モグ…モグ…」


端から見れば、口いっぱいに薬草を頬張っている人なんて引かれるかもしれない。

でもこの薬草はお母さんから渡されたもの。

それは森に自生しているものではなく、お母さんの先祖が代々受け継いできた、独自に開発した薬草。

こうして食べるだけで、命に関わるような大怪我だって治しちゃうって有名なんです。



「……さて、じゃあこっちは」


ゴアアァァァァァァァァ!!


リュトさんに斬られてさらに怒り狂った竜が咆哮をあげる。


そんな竜に対してリュトさんは――剣を捨てた。


「……!!?」


薬草を頬張ったままの私は、言葉を発することが出来ずにただただ驚きました。

そんな私の驚きを見透かしたかのように、


「この竜、殺す必要はないんだよね。意識さえトバすだけでいい。

 殺すことも出来なくはないけどさ。すごく疲れるし、なにより面倒いし」


最後のが一番の理由なんじゃ…と、


グアァァァァァァ!!


こちらに走ってくる巨大竜。

大きな口を開け、噛みついてくる竜を、


――横に躱したリュトさんは


「ちょっとだけ我慢して、ね!」


ギュッと握った右手で、





ドゴオオォォォォォォンン!!!!!


……ぶん殴りました。


……はい。そのまま素手でぶん殴りました。


竜の巨体は、リュトさんのただのパンチで軽々吹っ飛ばされ、


ドシャアアアアアアアン!!


そのまま地面に叩き付けられた


グル…ルルルルゥゥゥ……


あんなパンチを喰らってなお、首をもたげて睨み付けてくる竜。

しかしそこでようやく意識を失ったのか。


ズゥゥゥン…


竜の頭は、硬い地面に沈みました。

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