第11話 洞窟の戦い①

「ハァッ、ハァッ、ハァッ」


息を切らせて私は走る。

走る。 走る。

走る。 走る。


グオオオォォォォンン!!!


咆哮。さっきよりも近い。

近づいてきてる。確実に。


「嫌、嫌だ、逃げ、逃げなきゃ…!!」


がむしゃらだった。

右へ、左へ、

逃げ続けた。

戦うという選択肢は最初から頭に入っていなかった。


もうどこをどう通ってきたかなんて分からない。

アレから逃げれば逃げるほど、私は洞窟の奥へ奥へと、

私の気づかないうちに進んでしまっていた。


「…!!あの岩の陰に隠れれば…」


やりすごせるかもしれない。根拠も何もない希望にすがり、左に見えた大きな岩の裏に滑り込んだ。


ズシン、


ズシン、、


ズシン、、、


竜が。近づいてくる。


ズシン!!


「……!!!」


恐怖で声をあげてしまいそうになるのを必死に耐える。

早く!早くあっちに行って!


グルルルルル…


竜は周囲をひとしきり見渡したあと、


ズシン、、、


ズシン、、


ズシン、



洞窟のさらに奥へと行ってしまった。


「た、助かったぁ…」


思わず涙がこぼれ落ちる。

でもここに居続ければ、いずれ見つかってしまう。


私はゆっくり立ち上がり、逃げてきた道を逆走した。





数十分後、

岩の迷路を彷徨い続け、ようやく光差す開けた空間に戻ってきた。


「ふぅ、ここまでくればもうすぐ出口…」


四方には穴がいくつもあった。が、最初に通ってきた穴だけは覚えています。

大きな足跡が正しい穴を教えてくれる目印になりました。


「…うん、こっち」


私は目印を頼りに、出口に――希望につながる穴へと歩いていく。





フッ…


頭上を影が横切った。瞬間――



ドゴオオォォォォォォン!!!!


一瞬、何が起きたか分からなかった。



それを理解できたのは、


白いローブが、真っ赤な血で染まっていたのを見たときだった。



「あ、ああああああああああああああ!!!!」


突然の激痛にのたうち回った。鈍色の地面が、私の血で真っ赤に塗れていく。


ズシィィィン……!


地響きがした。

そこには、地面にくっきり残された足跡の主。

頭上を横切った影の正体。

蒼い鱗の巨大竜がいた。


「あ、あぁ…」


視界が霞む。思考が歪む。

持ってきた薬草を全て食べたとしても、回復しきる前に襲われる。

立ち上がって逃げたくても、激痛で力が入らない。


私、このまま死ぬんだ――

大魔道士を夢見て、魔王討伐の旅に出て、逃げて、

お母さんへの恩返しも、何も出来ないまま死んでいくんだ…


グオオォォォォォン!!


竜は再び雄叫びをあげ、

走ってくる。私目掛けて。


とうとう死を覚悟し、ゆっくり眼を閉じる私の脳裏に、

最期に浮かんだ想いは――




「助けて、リュトさん……」



ガキィィィィィン!!


突如、金属音がした。


私が閉じかけた眼を開き、見たのは――


「――はぁ、ホント面倒かけないでほしいんだけど?」


私の勇者が、そこにいた。

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