第8話 港町ヴィーゼル③

ギィィィ…


ゆっくりと木製の扉が開く。

そこにいたのは――


「ん?なんだ、戻ってたんだ」


はぁはぁと息をつきながら、昼から変わらずベッドに寝そべっているリュトさんを見る。


「……そのローブ、なんか汚れてるけど、なにかあったの?」


少し振り向いたリュトさんが疑問を投げかけてきた。


「……知らない男の人たちとぶつかって、因縁をつけられて、思いっきり殴られました…」



―― 30分前 ――


「おまえみたいな生意気なガキは――躾をしてやらねえとなぁ…」


男はぐにゃりと歪んだ笑みを浮かべ、そして――


「君たち!そこで何をしている!」


男達の後ろから声が飛んできた。


「げぇ!見廻りの奴らだ!逃げろ逃げろ!!」

「あ、こら!待ちなさい!!」


男3人組は、青い制服を着た男の人に見つかるや否や、私を置いて逃げていきました。


その男性――見廻りの人が近づいてくる。


「キミ、大丈夫かい? 

 っ!顔怪我してるじゃないか!」

「だ、大丈夫…です。これくらいの怪我…なら…」


その人の手を掴み、ヨロヨロと立ち上がる。


「本当に大丈夫かい?よければ診療所まで案内するけど?」

「大丈夫ですって…!それじゃ私、もう帰るんで…」


助けてくれたその人を振り切り、私は宿に帰っていった。



―― 現在 ――


殴られた顔の傷は、母から受け取った薬草を食べて、大方回復していた。

しかし、突然襲われた心の傷は全く癒えていなかった。

そんな話を聞いたリュトさんは、


「へえ、大変だったんだ」


あっけらかんとした反応。

わたしは、心の奥からどうしようもない怒りが込み上げてきた。


って、それだけなんですか?

 もっと心配してくれてもいいんじゃないですか!?

 私たち、一緒に旅をする仲間ですよ!?」


声を張り上げる。隣の部屋にまで聞こえてしまうくらいの怒声で。

そんな私の問いかけに、リュトさんはなんて言ったと思います?


「それくらいだったらさ、自分を自分で守れなきゃダメでしょ」

「っ!!!」


何かがプツンと切れた。

それが何かは分からなかったけど、一言で言い表すなら


――もう我慢の限界だった。


「もういいです。わたしばっかりこんな目に遭って、なのにリュトさんは何もしてくれない。こんなのもう耐えられないです」


目に涙を浮かべながら、

私はリュトさんを見て、


「本当に短い間でしたが、お世話になりました」

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