第297話内需

春日虎綱「殿に敗れて以降、武田は自らの権益拡大を目的としたいくさをしてはおりません。しかしその間にも北条の要請に応じて関東などで戦っています。いくさをするわけでありますので、武功に応じ褒美を与えなければなりません。感状や偏諱。甲斐で産出される金にいくさ場における乱取り。ただこれらのものは全て一時金でしかありません。使用頻度が高まれば高まるほどその効力は低下することになってしまいます。


 加えてあくまで一時金でありますので恒久的な主従関係を保つことは難しくなってしまいます。家臣はより良い条件。同じ功績に対し、より大きな対価を得ることが出来る場所を求めることになります。今の武田よりも多くの収入を得る可能性がある場所。勢力の拡大の只中にあるところを求めることになってしまいます。才ある家臣を領内に繋ぎ留め続けることの出来るものが無ければなりません。


 その可能性のあるものが武田領内に存在しているのか?義信様や飯富様は模索したと思われます。最も効果が大きいのは耕作地であります。長きに渡り収穫物を得ることが出来る。一時金にはなりませんし、定住することが必要となります。頑張り次第によっては更なる増収を期待することが出来るのが耕作地であります。その耕作地となり得る場所であり、かつ誰のものにもなっていない土地が武田領内には存在しています。ただ1つ大きな問題があります。それは、何故それまで耕作地として利用されていなかったかであります。


 甲斐の中心地は盆地であります。そこは昔、湖の底であったと言われています。土砂の流入などあり、長い年月を掛け、今の姿になっています。土砂が流入するのに必要なのは水であります。つまり今は土が姿を見せている土地でありましても、いつ何時水浸しになるのかわからないのが甲斐の盆地であります。加えて盆地内を流れる河川は暴れ川。毎年のように洪水が発生し、なかなか水が引くことはありません。治水工事は行われています。ただそれには多額の費用と年月を必要としています。正直、割が合いません。そのような土地を褒美として受け取った家臣は、どのように気持ちになるでしょうか?


『厄介なものを掴ませやがって。』


と逆に恨みを買う恐れも否定することは出来ません。しかもここ数年。甲斐は不作が続いています。貸した籾殻の返済免除が繰り返されている状況にあります。


『耕作地を褒美にすることは出来ない。』


『これと言った特産品があるわけでもない。』


『物流は駿河に首根っこを抑えられてしまっている。』


となりました場合、家臣は何を求めることになるでしょうか?」

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