恐ろしいビジョン

 ある美しい女性が歩いていた。


 頭髪が薄く、小太りで体格のいい中年男性が、その女の尻を通りすがりに撫でた。女は目をつぶり、黙って不快感に耐えた。


 少し離れたところを歩いていた、引き締まった顔つきをした若い男性が顔を真っ赤にして早歩きで男に近づいて、思い切り殴った。

「俺の女に#$%&」

 中年男は倒れこみ、茫然としたまま怒り狂った男を見上げた。男は、一瞬だけ頭を下げて去っていった。



 私がその後、仕事の都合で中年男の仕事場にいくと、その若い男の首が飾ってあった。


 その生首は天井から紐でつるされ、空間上の一点に縛り付けられたように、微動だにしなかった。

 生気を失った目は斜め下を向いていた。


 私はそれが何かを言ってくるのではないかと、目をつぶって心を集中させたが、何も聞こえてこなかった。


 中年男はそれから何でもないことのように仕事の話をし始めた。私は、その男と関わってはいけないのだと思った。

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