へー性病ってそういう風にかかるんだぁ
最近初めて彼女ができて、セックスをした。
結局二週間で別れてしまったけれど、いい経験だったと思う。
そう思って切り替えようとしていた矢先、性器に変な出来物ができていることに気が付いた。
痛くはなかったが、不安なのですぐに病院に予約を入れた。
性病だと、診断された。梅毒。早期発見で、そこまで酷くなっていなかったので心配せずにちゃんと薬を飲み続ければほとんど後遺症もなく治るとのことだった。
当然、あの子からうつされたのだと考えるのが普通だった。あの子は自分が処女だと言っていたが、どうやら嘘だったみたいだ。
別にそれについてどちらでもいいと思っていたから疑わなかったけれど、でも嘘だと分かるとそれはそれで少し寂しい。
ともあれ、教えてあげないと危ないな、と思った。梅毒は放っておいて治るものではないし、できるだけ早く治療を始めることが大事なのだと、ネットに書いてあった。
ただそれが彼女の嘘を暴くことになると考えると、少々気が重かった。
悩みに悩んだ結果、このような文章をラインで送った。
「Aちゃん、お久しぶりです。最近ちょっとチンコに変なしこりができて不安だったので病院に行った結果、梅毒にかかっていたことが分かりました。幸い軽症で、すぐに治りそうです。もしかしたらAちゃんにうつしちゃっているかもしれないので、病院に行くことを勧めます。迷惑かけてごめんなさい」
我ながら紳士的な文章だと思った。迷惑を被ったのはこっちだけど、別に大したことがなかったのだから気にする必要はない。ともあれ彼女の健康のためにも、被害者をこれ以上増やさないためにも、病院に行ってもらわないと困るし、僕は最善の行動をとったのだと密かに誇りに感じていた。
しかし、彼女からの返答は、僕を困惑させた。
「こちらこそごめんなさい。よければ、直接会ってまたお話しませんか? どうしても言わなくちゃいけないことがあるんです」
嫌な予感しかしなかったし、断ろうと思った。しかし矢継ぎ早にこんな言葉を送ってきたので、無下にもできなくなってしまった。
「本当に私、○○さんと別れたの、ずっと後悔してたんです。友達にも、あんないい人とは二度と出会えないよって言われましたし。でも後ろめたい気持ちもあって、私、どうすればいいか分からなかったんです。たくさん嘘をついてしまいましたし、自分の気持ちも分からなくなっていて。どうか私にもう一度チャンスをください」
結局僕は、次の休みの日に彼女と再会することに決めた。絶対に気まずいことになるのは分かっているし、僕自身としてはもう彼女のことは諦めたつもりになっていたから、どうすればいいのか全然分からなかったけれど、とりあえず今は彼女の言うことに従っておこうと思ったのだ。
「ということがあったんですが、どう思いますか文香さん」
知らんわ……なんて答えればええねん。
「えっと、まだ会ってないんですよね?」
「今週末会う予定です」
「なんでその前に私に相談しようと思ったんですか? こんな性病とも虚偽の性経験歴とも何の関係もないうら若き乙女に」
「いやぁ……何か役に立つ知恵を授けてくれるかもなぁと思ったので」
「私は何なんですか○○さんにとって! ……まぁ正直に言うと、その人とは縁り戻さない方がいいと思いますよ」
「やはりそう思いますか」
「だってその人とはネット上で知り合ったんですよね? 共通の友達、いないですよね?」
「いませんね」
「それなのに『友達にも、あんないい人とは二度と出会えないよって言われた』なんて、おかしいじゃないですか?」
「ただ僕の人柄を友達に喋っただけなんじゃないかと思ったけど」
「いやいや。自分の恋愛歴を隠すような女が、彼氏の自慢をしたとして、普通それを本当のことだと思いますか? 適当に言ったならともかく、会ったこともない他人の彼氏を本心から『あんないい人』なんてそもそも普通言いませんよ。ともあれ虚言癖ひどいと思いますよその人。不誠実です」
「あー……たしかに。やっぱり文香さんすごいですね。人間観察力が」
お前がぼけっとしすぎてるだけやろ……
「もういいですか? っていうかこの話ちょっと面白いんで改変して記事にしていいですか?」
「いいですよー」
本当にいいのかな……この人色んな意味でもっと警戒したほうがいいと思うけどなぁ。
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