似た者同士
レンジでチン。中から出てきたのは太い指、のように見えるソーセージ。
きっと誰しも考えたことがあることだと思う。ソーセージ、指に似てるなって。
「ねぇねぇ若菜。イカって蛸に似てるよね?」
「似てないよ」
私は即答する。友人の優は、何か何まで似たようなものとして扱ってしまう。
「じゃあさ、あじさいとあさがおって、似てるよね?」
「色だけね。色意外全然似てないけどね」
「どっちも花じゃーん」
「ひまわりとたんぽぽ似てるっていうようなものだよ」
「似てるくない? ひまわりとたんぽぽ」
「似てないよ」
「まるで私たちみたいだね」
そう。優は私がどれだけ否定しても、最後にはその言葉で締めくくる。さすがに私はその言葉までは否定できない。
「まぁ、そうかもね」
「へへっ」
実際、優と私の顔は少しだけ似ていた。成績も大体同じくらいだったし、身長も体型も大体同じだった。性格だけは全然違うけど、お互いのことが好きだという点では、同じだった。
優はどんな人との間でも、共通点を見つける。だから友達がすぐできるし、男の子にもモテる。優みたいな元気のいい子に「私たち、似た者同士だね」なんて言われたら、男子は勘違いしてしまうのだろう。
見かけによらず優は案外意志がしっかりしていて、流されるタイプじゃないから、今までたくさんの男子たちが撃沈していった。その中には、親友である私からアドバイスを貰おうとした人もいた。
優がモテると、私は少し嬉しかった。私によく似た優がモテていると、私までモテてるような気がしたからだ。
多分それは私だけじゃなくて、優の友達みんなが思っていたことだと思う。優は、本当にひまわりみたいな子だと思った。それで、私がたんぽぽ。
本当は全然違うけど、言われてみたらちょっとだけ似てる。
昼食の時間、たまたまその日は他の子たちが何やら揉めてて、そういうのが苦手な優と私は二人で食べていた。
「ねぇねぇ若菜。思ったんだけどさぁ」
優はいつもより少し大人しめだった。顎を引いて、上目遣い。自然な仕草で、可愛らしいのにぶりっ子っぽい感じがしない。私は思わずドキリとした。
「若菜の指って、ちょっとおいしそうだよね」
「えっ」
「肉付きがよくて、それなのに引き締まってて、繊細で、よく味が染みてそう」
「怖い事言わないでよ」
「このソーセージによく似ているね」
「いや怖い怖い怖い!」
私は思わず笑いながら大声で叫んでしまう。びっくりしたクラスメイトがこちらに注目して、私は赤面した。優は全然気にせず、そのソーセージを口の中に入れた。
「私の指も若菜の指に似て、ちょっとおいしそう」
そう言って、箸をおいて右手をひらひらと振った。不自然に、左手を隠している。
「ねぇ、何? 優なんか変だよ?」
「私さ。食べちゃったんだよね」
「え、何を?」
「これ」
優は、左手の甲を見せた。
中指が、なかった。第二間接から先が。
私は驚いてふらっとしたが、よくよく見てみると優が楽し気に笑っていて、冗談だと分かった。
「嘘嘘!」
ただ、指を折り曲げていただけだった。こんなつまらないことでビビってしまって、なんか悔しかった。
「ほんと若菜って、怖がりなんだから!」
「やめてよもー……ほんとにびっくりした」
「でも、実際若菜の指おいしそうだから、食べてみたいんだよねぇ」
「そういう冗談ほんとやめて。ごはんがまずくなっちゃう」
優は肩をすくめて、席をたって、椅子を私の隣に持ってきた。座って、肩と肩が触れ合った。
「何々?」
時々優は、こうして過剰なスキンシップを取ってくる。
「指出して?」
「こう?」
私が左手を出すと、ぱくっと小指を加えた。
「えっ。何やってんの……」
「んー美味!」
ちゅぽっと音を立てて口を離し、優は満足そうに笑った。
「別の意味で怖いわ……」
優の唾液でべとべとになった小指をどうしようか悩みながら、でも優がここまでするのは私だけだと思って、少しだけ嬉しかった。
優は時々奇行に走るけれど、その対象はいつも私なのだ。そのたびに、驚き、呆れつつ、喜んでいる自分がいる。
「こんなことされて喜ぶなんて、若菜はやっぱり変態だね」
「こんなことをする優の方がずっと変態的」
結局、似た者同士なのだ。私たちは。
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