第9話「いや、時計台ちっさ」①


 豊平川を越えたところで二年六組を乗せたバスはゆっくりと止まった。


「よぉし、とりあえず着いたから点呼よろしく~~、バスの中の荷物はホテルに運んでおくからぁ、人数が確認できたグループから行ってきていいからね~~」


「「「「「はーーい!」」」」」


 プルンプルンのお尻と胸を持ち、その特別な容姿端麗な美貌を見せつける担任教師は大人の微笑みを加えて見せつけながらそう言った。


 そして、いつも彼女の事をいじるような生徒たちも今日という日だけは可愛く返事をしている。


 現在、中島公園前のホテル下にバスを止めているのだが、そんな場所からでも大きなビルや大きな橋が目に入る。東京と比べたら多少の見劣りするが、北海道の中で最も大きい街として、さすがの景観だった。


 まっすぐ進めば確か大人の街、ススキノもあるはずだ。まあ、俺たちの歳じゃあ行くことはできないけど……。ただ、あの街に入った時に湧き出るワクワク感は高校生男児としての何かを覚ましてくれる気がする。


 ―—そんな、窓から見える札幌の風景はとても久しぶりな気がして、俺も俺で胸が跳ねていた。


「——ようやく着いた、着いたよねっ‼‼」


「うんっ、マジヤバいしょ、こっちゃやばいしょ‼‼」


 前の席でウキウキ気分を止められない二人こと霧雨麗奈と斎藤静香、それを見て苦笑しながら俺は溜息を漏らした。


「ああ、楽しみだな」


「楽しみ⁉ それよか、もっとじゃん、それすら通り越して、草もっ通り越して、わやじゃん‼‼ 早く外行きたいんだけど‼‼」


「霧雨さんも中々だねっ……ほら、とりあえず僕たちも点呼しないとっ」


「ん、あ、そうね! 清隆君の言う通りね‼ じゃあみんないるわね、よし‼‼」


「いや、ちゃんとやれよ……」


 あまりの適当さと、語彙力のなさに俺は少しだけ安心した。


 普段なら、もっと冷静で優しい彼女もディズ〇ーを前にして叫び出す女子高生の様な表情をしている。いやしかし、ここまで狂わせるのは中々と言ってもいい。


 札幌はそこまで凄い場所でも良い所でもないんだけど——と感じるのだが、田舎に住んでいる人たちは札幌に夢を持っているという話はどうやら本当のようだ。


「よぉし、みんなちゃんといるようねっ‼ それじゃあ回ってきても大丈夫わよ~~、しっかり20:00までには点呼もあるから早めに戻ってくるのよぉ~~」


 先生が言った言葉に霧雨さんはさらに飛び跳ねた。

 目が光っているというか、もう飛び出んばかりで引っ張られた俺の右腕がミチミチと悲鳴を上げている。


「はやっく‼‼ いこいこいこぉ‼‼」


「っ、いたっ―—」


「いいからぁ~~、早く‼‼」


「っはいはい、分かったから‼」



 引っ張られて震える肩、そしてそんなことに目も向けない女の子二人。この日だけは冷静な人間はいない。それにそんな晴れ晴れした彼女たちに相まって、空の快晴も凄まじい。


 女の子が元気になると騒がしくなるが、こんな経験も最初で最後だろう。


 ——そう感じた時、俺が生きてきたのはこの日のための事だったのかという気持ちが沸々と湧いてきて、うっすらと涙が滲んでしまった。


「——っうぉ‼‼」


「っ」


「——ん、あれ? どったん? 昇二ぃ?」


「え……あ、いやっ……なんでもっ」


 俯きながらブレザーの袖で目を拭うと、開けた視界から上目遣いをした彼女が見ていた。


「ん……ま、まさかぁ」


「い、いやいやっ‼ 違うって‼‼」


「うわぁ~~、あんなに強気だったのにぃ、札幌来ちゃって泣いちゃってぇ~~私よりも楽しみじゃぁんっ」


 ニマニマと笑みを浮かべる霧雨さん。

 俺の視界の先でしゃがみながら、涙浮かべた顔を嬉しそうに眺めている。


「……ち、ちが」


「あはははっ、おもしろぉぉ~~い。ほんとにめんこいねっ昇二!」


「そ、別に――――そんなあれじゃ……」


 すると、後ろから肩を叩かれる。


「————っほら、早くいくわよっ泣き虫くん‼‼」


「っだから、違う―—」


「ほらほら、行くよ。泣き虫昇二ぃ~~」


 含みのある笑顔を見せつける斎藤さんに、元気な笑顔を見せつける霧雨さん。

 両手の花と言っていいのかは分からないが、ニンマリ、ニコニコと笑った女の子に囲まれて、俺と清隆君は快晴下の札幌の繰り出されるのだった。





【豆知識】

・「~~しょ」:意味は感じてくれ、フィーリングだ、僕も説明しずらい。

・「豊平川」:札幌市を流れる石狩川の一級河川。鮭の産卵が見られ、かなり大きい川として北海道では有名。

・「中島公園」:北海道札幌市中央区にある巨大な公園。街中にありながらかなりの大きさであり、その中にあるキタラコンサートホールでは一流アーティストが演奏会をしにやってくるらしい。冬にはクロスカントリーもできる。





<あとがき>


 皆さん、こんばんわ!

 歩直です!

 

 今回からは、僕の故郷でもある札幌について描かせていただきます。札幌自体かなり大きいので僕も知らない地域もありますが調べながら、聞きながら頑張っていきます! 修学旅行編で一区切りになりますが、挿絵付き小説を「たいあっぷ」というサイトにも載せるので完成次第、是非ご覧ください!(OPコンテストもあるので!)


 それと、200フォロワー突破、4000PV突破ありがとうございます! ある一作品がプチバズりしてしまったのでそちらにも時間を割いていますが、こちら含め他の作品も頑張っています!


 フォロー、応援、星評価などなどよろしくお願いします‼‼

 

 

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