第8話「天使ちゃんは札幌に行きたい?」2
そして、それからまた数日が経ち————。
「よし、それじゃあな、これから修学旅行が始まるということでっ、羽目を外さず、全力でっ、楽しんで行きましょうっ‼ これで先生からは以上です~~」
というわけで、ようやく始まった修学旅行。
昨日の決起会よりも騒がしい皆の歓声に俺も俺でいつも以上に胸が高まっていた。右を見れば言われた瞬間から立ち上がり、円陣を組む男子たち。そして左を見れば、女子たちがクスクスと笑いながら記念の写真を撮っている。きっとイン〇タかなんかに載せるのだろうが、俺が写っていないかが心配だな。
「なぁ、昇二?」
「ん、どうしたの? 清隆君?」
クラスの後方でひっそりと座っている俺に陽気な男子が声を掛けた。気がつけば、すでにグループが形成されていて、まるまる自由時間である中二日で行く札幌と小樽、そこで一緒に回るグループに集まって、クラスの皆は続々とバスに乗っていく。
「一緒に座ろかって」
「ああ、うん……そうだな」
「どしたの? 具合悪い?」
俺が返事をして俯くと、彼は不安そうに顔を覗いた。
「あ、いや——別にそう言うことじゃないけど、俺ってさ、まだこっちに来てばっかだし、興奮はしてるけど……っていうか、なんか複雑って言うか?」
「複雑?」
「うん、少しだけね」
「ははっ、センチメンタルだな……昇二って」
「よく言われる」
「そんな見た目なのに?」
「そうだが、悪いか?」
俺の方を指さして笑う清隆君に俺は苦笑した。確かに、昔もそんなことを言われたような気がする。柄が悪い見てくれをしているのに、こんな感じに卑屈だからさ。結構思われるわけなんですよ、と。
ほんと、俺が悪いんだけどさ。
「——悪いねっ!」
すると、俺の視界は揺れた。
ぐらんと揺れて、地面がくっきりと見えた。
しかし、その瞬間。
背中を襲った、久しぶりのあの感触。
途端に俺の五感がすべてを思い出した。
「——き、霧雨さんっ」
「大丈夫⁉ なんか、修学旅行の朝からこんなんだけどさっ?」
「あははっ、おはよう霧雨さん!」
「うん、おはよぉ~~、清隆君!」
思い出すも何も、すべてを駆け巡らさせる感触に動悸が高まったが微笑んだその表情に救われた。俺の背中から離れて、仁王立ちをして、特撮ヒーローの様に胸を張った。
「そ、それにしても……すっごい上機嫌だな」
「え、うんっ! だってそうじゃん、修学旅行なんだよ‼‼ ドキドキするに決まってるじゃん‼‼」
「そう、かもなっ」
背中を叩きながら、俺はしっかりと立ち上がった。俺の記憶では修学旅行なんてクソみたいな行事だったするが、霧雨さんの笑顔を前にそうも思っていられないかも知れない。
それに―—
「もう、待ってってば~~!」
元気な彼女の後ろから現れたのは、彼女と同様————いや、それ以上に。凄まじいほどに、上下に揺れる。豊満で、豊かで、破壊力のある、超絶怒涛の勢いを兼ね備えた大きな胸をこれでもかと強調した
「お、おはよ、斎藤さん!」
「っはぁ、っはぁ……う、うん……清隆ぁ」
「ははっ、どうしたんだよ、疲れちゃってさ?」
「だ、だってぇ……れ、
何気なく話している二人だが、俺は決して見逃してはいない。二人とも下の名前予備だということを。さすが、陽キャな清隆君だ。それに、普通に言ってのけちゃう斎藤さんもだけど……ビックリするくらい早い。
「あ、あぁ~~、清隆もいたぁっ……」
「ひぇ?」
ようやく呼吸が落ち着いてきたのか――なんて思っていると彼女が俺を呼んだ。
そう、しかも下の名で。
「ん? 何よ?」
「え、い、いやぁ……その、した、下の名でっ……ていうか……」
「……」
途切れかけていた息を落ち着かせて、彼女はしっかりと俺の目の前で立った。そして同時に、ぼーっとした視線を向ける。
「え?」
「あ、あぁ……そういうことかぁ……っくく」
「はえ?」
口角が上がった。
そしてさらに、口がニヤリと笑みを浮かべていく。
「……そ、それだけで、そっかぁ……うんうん、そっかぁ……よしっ、これは真面目に――――かまかし甲斐がぁ、ありそうねっ!」
俺は悟った。
覚悟などしてはいない。
しかし、始まったのだ。
この修学旅行で俺にとって、霧雨さんにとって、斎藤さんにとって――――三角関係の始まったのだということを。
<あとがき>
ええ、お久しぶりです。
皆さん、歩直です!
新作の投稿、たいあっぷにむけての原稿修正など、その他諸々の事情で他の作品が書けてなくてすみません‼‼ ここまでフォロワーさんも増えて、自分の責任もその重みも上がったのかなぁと実感しておりますが、時間は限られているわけで……ほんとに辛いですね。
とにかく、たいあっぷのOPコンテストに向けて、挿絵のラフも上がってきてまいります。まだ見せられませんがかなり綺麗なので是非そちらのサイトの方でも読んで見てください!
では、また‼‼
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