第7話 「天使ちゃんは微分に苦しむ!!」5


「あ~~っ、今日のテストも終わったぁぁ‼」


 隣で背伸びをしながら言った霧雨さん。冬服の厚手の制服からはち切れそうになった大きな胸がプルンと揺れて、俺は反射的に目を逸らした。


「っ……は、早く帰りたいわぁ……」


「うん~~、分かるっ! もうテストなんてしたくないもん!」


「俺の意味的には帰って勉強したい――なんだけどな」


「——っ、引くわ~~」


「引くなよ、普通だっ」


 俺がふざけながら彼女の肩を叩くと、真面目なジト目が飛んできた。


「——はい、ごめんなさい」


「よろしいっ!」


 いや、勉強するのは普通だろ――と心の中で呟いたが自信気に胸を張る霧雨さんを見ると少しだけ言いずらい。俺が俯きながら愛想笑いを浮かべていると彼女の前の席から、もう一人の女の子が飛びかかってきた。


「——t⁉」


「よぉーーっと‼‼」


「って、おとととっ――んがぁっ⁉」


「ちょっ――あ、昇二っ⁉」


 不意打ち、完璧なる不意を俺は突かれてしまっていた。飛び掛かる――いや、どっちかというと俺の頭を覆いこむように飛び乗られたと言った方がいいかもしれない。


 ぐっとし掛かる重みは霧雨さんの比ではない。斎藤さんの着やせするがその下に隠しているムチムチに張り込めるお腹と二の腕が俺の背中と頭に圧し掛かっていた。


「っう――」


「昇二っ、大丈夫っ——!?」


「あっはははは~~っ、大丈夫ぅ~~昇二ちゃん⁇」


「っててて……おい、何するんだよっ!」


「うひょー、こわーーい目」


 反射的に少しだけ強く言ってしまったが、そんな俺の反応に対してニヤニヤと返す彼女。その後ろで霧雨さんはワタワタと慌ただしく動いていた。


「——ぁ、だ、大丈夫なのっ、昇二!?」


「あ、あぁ……少し痛いけど、大丈夫」


「うわっ‼‼ おでこ真っ赤じゃん‼‼」


 右手で自分の額を触るとチクっとした鋭利な痛みが襲った。触った手を見ると少しだけ血がついている。


「——っく、血か」


「え、ほらっ、これ当ててっ‼‼」


「う、うん……別に、大丈夫だよ」


「え、あ、あぁ――」


「ちょっと待ってて、今水で濡らしてくるっ‼‼」


 額を霧雨さんの綺麗なハンカチで抑えていると彼女はすぐに廊下を出て、走っていく。試験も終わり帰ろうと準備をしている生徒を掻き分けて、その姿は見えなくなっていた。


「——あ」


 しかし、そんな一連の流れを見ていた斎藤さんは先ほどの笑みを引っ込めて、口をパクパクとさせていた。


「さ、斎藤さん?」


「——えっ」


「だ、大丈夫?」


「あ、え、うんっ……」


 我を取り戻すと彼女は頬を赤くした。なんでなのかは分からなかったが、その慌てようから見るにどうやら反省しているようだった。


「——ちゃんと、考えて行動してよ」


「う、うん……」


 さっきまでの笑みはどこかに消えていた。


 口を結び、俯いてもじもじとする斎藤さん。ただ、今度は今度で逆に後味が悪い。幾ら最近知り合ったとはいえ、そう関係を断ちたいと思う俺ではない。交友関係は大事であることは自分がよく分かっている自信がある。


「ご、ごめん……す、こし……やり過ぎた……っ」


「少しじゃないけどっ」


「うぅ……ごめん……」


 まるで、悪さをした犬のように小さくなっていた。そんな彼女を前に居心地が悪くなっていると霧雨さんが額に汗を浮かべながら帰ってきた。


「——っはぁ、っはぁ」


 息切れ、足を止めて膝に手を着いた。


「こ、これ——つ、けてっ‼‼」


「え、うん」


「ふぅ……」


 俺は濡れて冷たくなったハンカチを額に押し付ける。

 それと同時に、斎藤さんは口を開いた。


「そ、その……ごめん……」


「はぁ……もう、駄目だよっ! こんな事したらっぁ!」


「う、うん……」


 別に怒っているわけではなさそうな言い方で人差し指を斎藤さんの前に立てていた。それに対して、さらにもじもじと動く彼女。


「——まぁ、大丈夫なら早く帰ろ?」


 しかし、そんな彼女の暗い顔を見かねて霧雨さんは不意に呟いた。


「っえ、い、いいの?」


「いいよぉ……だって、斎藤さんだって勉強したいんでしょ?」


「そ、それは——なんというか、言葉の綾というか」


「ジ――――」


 いつもだったら俺に向けているジト目を彼女を前に向ける霧雨さん。俯瞰したのは初めてだったがこうしてみると意外にも怖くはない。


「い、行きます」


「————いや、俺抜きで決めるなよっ」


「よーし、いくぞーー!」


「おお~~!」


 俺の横を横切って、二人は軽い足取りで教室を出ていった。

 教えるのは俺なんだぞ……どうしてだよ……てか、なんでもう仲良くなってるんだよ。


 ――そう、心の中でツッコミを入れた俺は教室で一人立ったままだった。





<あとがき>


 こちらの作品ももう少しで150フォロワーです‼‼


 ということで、四日前に投稿した作品が一瞬で100フォロワー超えてビビっている歩直です。


 まあ、この作品を読んでくださっている読者様には関係ないかもしれないですが小心者の僕も色々と思うことがあります笑 なんとか行く先を見届けてやってください!


 そう言えば、イラスト見られたでしょうか? 可愛い可愛い霧雨麗奈ちゃんが堂々と表紙を飾っていて、僕的にもすっごく感激しております! なおすけ先生は僕とかなり年が離れている方なのですが、ずっと前から拝見させていただいて、先生が描くJKが好きだったのでこんな風にキャラを描いてもらえてうれしい限りですっ!


 いろいろ準備も出来たら、また告知させていただきますね‼‼


 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る