第5話 「テスト前の息抜き」3
「なぁ、僕も昼一緒していいか……?」
昼休み、俺がリュックから弁当を取り出しているとそんな声が掛かった。その声、聞き覚えがある。今朝、俺の机の周りで屯していたDQNを追い払ってくれた
「あ、吉田君……」
「ダメだったか? あれかな、それともお邪魔だったかな?」
すると、彼は隣の席を見る。
勿論、そこには同じく弁当を取り出して、こちらへ身体を向けた霧雨さんがいる。
「え、私っ⁇」
「う、うん? 僕も一緒じゃダメかい?」
「別に、ダメじゃないよ? えっと——何くんだっけ」
「吉田、吉田清隆!」
「清隆君ね、よし! ほら、椅子持ってきて、食べよっ!」
「おう!」
霧雨さんはニコリと笑った。
初めて俺が来た時に見せた笑顔にように晴れていて、チラッと見た俺の心も持っていかれそうだった。
そして、俺たちは机を繋げて弁当箱を開けた。
「今日は……からあげか」
「うわ、うまそうじゃん!」
「え、昇二くんの弁当……凄くないっ⁇」
「そうかな……今日はたまたま父親が作ってくれたというか……」
「お父さんが⁉ すごっ——!」
彼女がそう言うと教室が騒めいた。誤解を生む言い方は正直やめてほしい。
「あ、あぁ、まあ最近料理を始めたらしくてね。お試しに持っていけって」
「いいお父さんじゃんな、僕の家はずっと母さんが作ってくれてるし父さんもたまには料理作ればいいのにって思うよ」
吉田君がそう言うと、霧雨さんが。
「え、でもそれってさ?」
「うん?」
「裏を返して見れば、奥さんの料理が凄く美味しいから――っていう理由じゃない? それならめっちゃ嬉しくない? 私そういうのすっごい憧れあるんだよね~~」
「憧れね……」
「なによ~~、昇二はなんか憧れとかあるの?」
「あ、それは僕も聞いてみたいな~~、転入早々女の子をとり込んじゃうくらいだからねっ!」
「な、わ、私は取り込まれてるわけじゃないし! そ、それに……昇二とはまだ友達だよぉ……」
「ああ、そうだよ……別に取り込んでないし」
自ら言うと少し悲しくなるのが現実だ。
転入から今までの期間で仲良くなったとは思ってはいたが、未だその
正直に言えば、俺は霧雨さんが好きなんだろう。だって、可愛いんだもん。俺を受け入れてくれたのもそうだし。それに、何か運命的なモノを感じたんだ。あの時に。
「——そうだっ、昇二!」
「——ん?」
「これさ、もらってもいい⁇」
俺が一人でため息を漏らしていると彼女は唐揚げを指してながら言ってきた。
「欲しいの?」
「うんっ! このザンキむっちゃ食べたい!」
「……いいけど、これは唐揚げだぞ?」
「唐揚げ……? ザンギでしょ、これ?」
彼女を見ると、瞳の奥には「はてな」が浮かんでいた。どうやら、素で分かっていないようだ。
「ザンギって……もっと濃いのを言うんじゃなかったっけ?」
「わや?」
「わや」
「ははっ……話がかみ合ってないぞ二人さん」
その間でクスクスっと笑いながら腕を組む吉田君。
目を見る限り、この論争に決着を入れてくれそうだった。
「ザンギでしょ?」
「え、これはさすがに唐揚げじゃないか?」
「まあ、僕的にも唐揚げだろうな……?」
「——ええ⁉」
「ほらっ」
机に突っ伏して崩れる霧雨さんに対し、俺は当然だろうなと自慢げな顔をする。それを見透かされたのか、正面にいた吉田君には少し笑われてしまった。
「幼稚臭いなぁ……どうでもいじゃん笑」
苦笑い。
「——え、俺って幼稚臭いの?」
「幼稚園くらいだと……思うよ?」
「んぐっ――そ、そんなことはないと思っていたのに……ていうか別にいいじゃん!」
「いや、ねぇ、いいけども……。でもね、そらそうでしょ……そんなどうでもいいことで言い合える二人は相当……幼稚園児だよ」
笑いを堪えながら言う吉田君をぶん殴ってやろうかと思ったが——今朝の一件を思い出し、無理だと悟る。
「うぅ……こんな大人っぽい人に負けたぁ~~‼‼」
「大人っぽい⁇」
「大人、おとな……あだ、る、え、ろ……えろ、……エロエロ大魔王に……っぃ‼‼‼‼」
「——っ⁉ おい、ここ教室っ‼」
「え、なになに⁇」
霧雨さんが言い終えたころにはもう、遅かった。
吉田君の興味から始まり、教室中に「え、なに?」「え、ろ?」といった声が響き渡る。まるでインフルエンザのように伝染して、コソコソと話している姿が見て取れた。
「んっ——ちょ!」
「くそぉ……裸てんしっ——!?」
「やめっ‼‼‼‼」
俺は反射で彼女の口を押える。
「んん~~‼‼」
しかし、伝染した誤解は広がっていくのみだった。
【豆知識】
・「わや」:僕的には意味はないと考えています。しかし、一般的には「ひどい、滅茶苦茶」らしいです。
・「ザンギ」:「唐揚げ」のようなもの。線引きは道産子の僕でも難しい。
<あとがき>
庵野さんのプロフェッショナルが最高で泣けました。
さようなら、すべてのエヴァンゲリオン。
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