第2章「休日笑顔の天使ちゃん!」
第6話 「休日、釣りに行く天使ちゃん!」
――来たる週末、中間試験まであと一週間とちょっととなった今日。
俺はなぜか、港にいた。
洞爺湖と反対側の海で、三大夜景の一つでもある函館がちらっと見えるのがこの浜辺のいい所である。初めて来た場所にそんな感想を述べる俺も凄いのだがな……ふん。
「あれっ~~、昇二はもういるじゃん!」
防波堤の端に一人で座っていると後ろから明るい声がした。
「ん、あぁ、霧雨さんか……」
「よっ!」
「——よ?」
ニコッと笑いながら手のひらを見せる彼女を防波堤の上から眺める俺。
肌に張り付いたピチピチのダメージジーンズに、アウターで大きめでダボッとした青色のパーカーを着ていた。豊満な胸も覆い込むパーカーもとてつもないが、この位置から覗けば少し見えてしまいそうになる怪しいゾーンが俺の心を惑わせる。
「——よっと!」
「あ、ここ汚いよっ」
彼女の座る場所を指さすと「——えっ?」と困惑した表情を向けた。
「っ——え⁉ うそっ⁉」
「うそ」
「んぁ⁉ ちょ、ちょっと! 騙したわねっ昇二~~‼」
「痛い痛い……騙された方が悪いんだぞ」
「むぅ~~‼‼ もう、そんなこと言うなら海落としちゃうよ!」
「ははっ、それは怖いけど。俺は一応、泳げるんだぞ?」
「え、まじ⁇」
「まじだよ。これでも小学生時代は割とすごかった自信はあるっ」
俺は、何もない小さな胸を張った。
あの頃はあったかもしれない大胸筋は萎みに萎んで、今ではただの板になっている。恥ずかしいことではあるが、こんな細い身体も多少は泳げる自負はある。
「んぐ……せ、せっかくこっちに住んでいる私が泳げないんじゃ……なんか悔しい」
「——え、泳げないのか?」
「う、うん、私は泳げないよ‼‼ なにか悪いっ⁉」
頬を少しだけ赤らめながら叫ぶ霧雨さん。
不意をもってく彼女の技術を俺は凄く評価したい。しかし、何かができない女の事は男子目線で見れば凄く可愛く見えるから自明の理なのかもしれない。
「そうか……まぁ、別に悪いことはないんじゃないか?」
「——っ、そ、そう?」
すると、彼女は上目遣いできらきらした視線を俺に向けた。
「そう――だけど……、だって別に泳げなかったからって悪いことはないんだし」
「でも……親からはすっごく言われるのよ。泳げるようになりなさいっ! ——って」
「でも、便利ではあるかもな……」
「ほらっ‼‼」
「いやそれは仕方ないよ、事実だもん」
「っく……何よりもその事実の方が心に刺さるよぉ……」
しかし、俺が正論を突き付けると彼女が瞳をうるうるとさせてくる。そんな姿を見て、さすがに俺も身を引いてみることにした。いじる技術がない俺には少し難易度が高かったのかもしれない。
「え、あ、ごめん……すまない」
「むぅ……ひどい」
「ごめん……」
「——じゃ、じゃあ! 今度、プール行って教えてよ」
俺が俯きながら謝ると彼女は立ちあがって、こちらを指さした。
燦燦と照り付けた太陽の逆光でその指と顔はシルエットだけになっていたがスタイルの良さがくっきりと映っている。
しかし、プールへのお誘いとは中々テンションが上がってくる。心の中ではガッツポーズをしてしまっていたが、何とかその衝動を抑えて不安げに首を傾げながら――
「ぷーる……、いいけど」
「よしっ! 絶対泳げるようになるもん‼‼」
「まあ、行くのはいいけど……中間試験終わった後な?」
「んぐっ――――なんで! なんで今思いださせるのよ‼‼」
「え、いやだって霧雨さんが忘れてそうな顔してたから……」
「わ、わすれて——はいたけど……分かってるもん! ちゃんと、覚えたんだから‼‼」
「忘れてるじゃん」
「わっ——わすれてにゃい‼‼」
「にゃい?」
「っくぅ……っっくく――っ‼」
「——え、ど、どうしたn——っ」
「も、も、ももも……もういいもん‼‼ そんなこと言うなら清隆君に教えてもらうんだから~~‼‼」
俺が真面目な顔で訊き直すと彼女は途端に顔を真っ赤にして、防波堤の先へと掛けていくのだった。
「ま、待ってくださいよ‼‼ 霧雨さぁぁぁん‼‼」
「嫌ぁだああああああああ‼‼‼」
――海へ響く声、そして駆けていく二人の影。
――そんな光景に青春を思い出すのも悪くはないことだろう。
<あとがき>
カクヨムコンに短編が落ちていた歩直です。
割と悲しくて、命削って書いたものが否定されるとこんな気分になるんですね。本当にいつも読んでくれる読者様には感謝です。89人の方のために僕はこの小説を紡いでいこうと思います。今後はこの小説もたいあっぷの関係で投稿頻度も落ちるかもですがとりあえず5万文字までは頑張るので、読んでいただければ嬉しいです。
是非、この小説を伸ばすためにもコメントレビュー、フォローなどお願いします!
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