第5話 「テスト前の息抜き」
「——昇二くんっ、見てみて、私のテストっ‼‼」
そして、来たる金曜日。
6時間目の物理が終わった後、霧雨さんはニコニコと笑いながら俺の肩にのしかかってきた。首の後ろから手を回し、赤丸の付いたテスト用紙を俺に見せている。
「んっ、びっくりした……」
「ははは~~そんなのいいからっ、ほら、見てみてよ‼‼ ねねっ‼‼」
「…………うん。みるけどさ……」
豊満な胸の圧に俺の背なかは焼けただれて焦げそうになるほどに熱くなってしまった。しかし、当の本人はそんなことを気にするわけがない。最近は特に一緒に居て、彼女の性格も分かってきた。元気で、ましては天然な霧雨さんが俺の気持ちに気づいているわけがない。
そして、たぷんっと揺れた彼女の3.14は俺の熱を悪化させる。
「……っ」
「——ねねっ⁉ どうどう⁇」
そんな俺の騒めきを気にすることはなく、圧は数秒前の比を超える。俺の肩は彼女の胸に包まれかけていた。
「どうってなぁ……まぁ」
「——うんっ!」
彼女の吐息までもが耳に入り込み、ずずっとした音が鼓膜を撫でる。こんな脆弱でも俺は男だ。そんなリアルなゆるふわ天使ボイスに俺の竿も今すぐ起立しそうだ。
「っ……凄いんじゃないか?」
「だよね、だよね、だよねっ⁉ 私もそう思うんだけど‼‼」
「ははっ――やけにテンションが高いな」
……平常心、平常心、平常心。
童貞には刺激が強すぎる。これを経験した奴は凄いな、考えれば考えるほどヤリ〇ンと呼ばれるクズ――って呼んでもいいよね? こう考えてみると——彼らはこの心の騒めきに打ち勝ったのだと思うと、きっと俺には越えられないのだろう。
「……あったりまえじゃーーん! 私、テストで60点以上取ったの初めてだよっ⁉ もう最高、セコマいこぜ、かつ丼行こぜ」
嬉しさのあまり、彼女の顔はぷく――っと大きくなっていく。やがて堪えられなくなりきゃきゃっと笑っていた。
「あはは……良かったなぁ~~」
「っうぬうぬ、昇二はまだ部活とかやってないし、私のセコマ部に入ろうぜ、行って食べて遊びたいよ! 私は!」
「う、うん……なんだそれ?」
「ん~~私も良く分からないっ笑」
ニマニマと笑う霧雨さんを横目に僕はようやく、平常心を保っていた。
「まあ、でも……ひとまずはおめでとう、かな?」
「えっへん! 私は凄いっしょん!」
「あ、うん……自信を持つのは良いことだ」
「自身どころか、私なら学年一位を目指せることだって! 絶対っ‼‼」
彼女はそんな豊満な胸を張って仁王立ちしている。
その自慢もさることながら、思わず触りたくなるような衝動を覚える胸のほうが自慢できるのでは――なんてゲスな考えも浮かんでくる。これ以上は言わない、俺は男だし、童貞だし、こう思ってしまうのは何一つ問題はない。
と思ってもいいよね?
「そうかな……自慢は良いけどな、頑張る糧にできるなら」
「もちのろんっ! いけるわよ‼‼」
しかし、そんなことはごみ箱にでも捨てておけばいい。幸せそうな笑顔が真横で咲いてはいるがそんな彼女に俺は言いたい。
君は小テストの順位も学年180位であるということを。学年200人いて下から20番目。到底自慢などできないのだ。
そして、彼女には現実が必要なのだから。
「……再来週は本番の中間試験あるんやぞ……っ」
「うぐっ」
「だいたい、学年順位180じゃ無理でしょうが……そもそも100位もいってない」
「うぐっっ」
「まだまだ努力は必要……というより必須だ、自慢を持つのはいい、でもやっぱりまだ勉強しなきゃだよな」
俺は一人で頷いた。
横では張っていたはずの彼女の胸が垂れ落ちている。
「ひ、ひどいよぉ……せんせ……」
「仕方ない、だって去年も留年しかけたんだろ?」
「——ぐさっ! そ、それは思い出させないでっ‼‼」
心臓に白羽の矢が刺さったの如く、彼女は胸を抑える。
「……そんなトラウマならなおさら勉強しないとダメじゃん」
「ぐはっ――――つらたん……」
「もう……?」
「——くそぉ、このエロエロ大魔王……私が見つけた時はすっごくめんこかったのに! 私をいじめるな~~」
「俺の気持ちも分かっただろ?」
「……うん」
終わりは何かの始まり。
それが指すのはまさにこのこと、小テストの後は中間試験がある――という地獄のスケジュール。
――――今に思う。
きっと、俺たちが仲良くなったのはこの試験からだったのだろう。
あづましかったあの頃の僕を。
【豆知識】
・「あづましくない」:「落ち着かない」
・「3.14」:「π(パイ)」
<あとがき>
もうすぐフォロワー100人、この調子で続いていけるように頑張ります!!
いつもコメントをくださる方には感謝カンゲキ雨嵐です。承認欲求の塊みたいな自分ですが、いつも読んでくださる皆さんのために頑張ります。いずれこの作品が100話を超す頃には書籍化していることを夢見て、全力を尽くします。
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