第4話 「小テスト頑張ろうよ、天使ちゃん!」4
「……」
まったく、俺がここまで脆弱だったとは——こっちに来ていじめられることもなかったため忘れていたが、俺はこんなことで折れるような脆弱で悲壮感漂ったクソ人間だったな。
こうやってされるのは結構、心にくるんだな——。
「えっとぉ……プロポーズは提案する……んあ、けっこんじゃ、あれ、なんだこれぇ」
しかし、そんな俺の悲観には目もくれずミスコン準優勝こと霧雨麗奈は着々と英単語帳にある例文を読み進んで――――いなかった。
「……Proposeは動詞で正確には『~を提案する』だよ、日本語と英語じゃ意味の違いも多々あるし、結婚を申し込む――みたいな意味で使うから頭に入れておいた方がいいかもね」
すると、彼女は手に持った単語帳をぺらぺらと捲った。
「……ぁぁ」
「どうしたんだよ?」
「っむ! だって、だって多いじゃん‼‼ 何語やると思ってるのさ! これ、英語だけ、英語だよっ⁇ 分かってるのかな、先生は‼‼」
「……そんな多くないだろ、100語だよ?」
「なっ‼‼ そうやって頭いいアピールするのはモテないぞ!」
これが普通だ。
少なくとも、俺が前にいた学校ではな。
「ああ、そうだな、俺はモテないもんなぁ……そらミスk——かわいい女子高生とは違って陰キャラな俺じゃ無理だなーー」
「私は……モテてないし」
「嘘こけ、今日だって帰る時に色々声掛けられてたでしょ。一年生が色々あーだこーだって言っていたような気がするけど?」
「あれは……モテてたわけじゃないし、あんなの私を見てくれないじゃん」
「は、はぁ」
俯く霧雨さん。
しかし、こんなテンションじゃとれるものも取れないしどうにか俺も協力してやり遂げるしかない。
「今週の範囲はとりあえず、100単語だから。俺も手伝うし、ここには何時くらいまでいれるの?」
「ん、なんで急にそんなこと……ぉ」
「いいから、俺も手伝いから教えて」
「ま、まぁ……親も仕事でいないし、高校に入ってからは自由放任主義だから……23時くらいまでは」
「じゅ、23時っ_」
「な、なによぉ」
「いや、別に何もないけど」
齢17歳の女子高生の門限が23時とは……札幌にいた時は耳に入った話だと普通は9時くらいがだった気がする。
噂、あくまでも盗み聞きだ。盗み聞きが悪いことは知っているが生憎、女子の友達なんて俺にはいないからな、勘弁だ。
「まあいいや、それなら問題ない。今はまだ4時20分だし、このままいけば英語の方は17時半までには終わるよ」
「うそ、そんなの無理だよぉ」
「無理じゃない、やらなきゃとれないんだからやるの」
「っく……分かりました。同人誌大好き、先生……」
「っおい‼‼‼‼ 違うってあれは、あれは違うから‼‼‼」
「え、えぇ~~だってねぇ。あんなエッチな本持ってるんだしねぇ、エロエロ大魔王なんでしょ~~⁇」
「だ、だれがそんなクソみたいな魔界の王様になるものかっ‼‼ 俺はちがうぞ、そんな変態じゃないぞ‼‼ お、男だから普通の事だ‼‼」
「あっはははは~~必死になっちゃって~~」
「やめろ……まじで…………範囲二倍にするぞ?」
男として、一時的な先生としても。そんなものを弱みにしたくない俺は持ち前の眼力を見せつける。
「っひ‼‼ ご、ご、ご慈悲を……それだけはぁ……!」
「……はぁ。じゃあ、分かったらやるぞ」
「は、はい!!」
こうして、同日20時03分。
俺たち二人のプチテスト勉強が終わりを告げたのだった。
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